「お前らいい加減にしろよ……」
イライラを隠しもせず地から這うような声を出すミルズをよそに、タイラーとジェイは朝からベッドでのお喋りに夢中だった。間に挟まるミルズの睡眠を盛大に邪魔して。
「でね、花火を五千発上げて、フィナーレの後にホテルへ移動するの」
「景気がいいな。部屋はスイート?」
「もちろん! 三人で楽しめる広いベッドなんだ」
会話の内容はジェイ主催のクリスマスパーティについてらしいが、規模がでかすぎてミルズにはぴんと来ていない。さらに続くホテルだとかベッドのくだりは無視したかったが、「三人で楽しめる」という台詞から察するに、どうやらすでに休暇の予定が組まれていそうだ。
どういうわけか、顔の広いジェイは警察署にもなにがしかのツテがあるらしく、知らないうちに休暇を入れられていることがままある。あまり勝手をするなと怒れば、「僕たちと一緒に過ごすの……嫌?」と弱々しく震える声と瞳で迫られるので、それ以上は強く咎められない。
仕方なくジェイの肩に手を乗せて「そんなことは……ない……」と下手くそな慰めの言葉を掛けていたら、彼の後ろを通りがかったタイラーにアホほど笑われた。クソ、あいついつかとっちめてやるからな……! と思ったのは初期の話。
「ちょっと、退け」
胸にどっかりと乗っかっていたふたりを散らし、ミルズはベッドを後にする。昨日の夜はちょっと激しくやりすぎたな、と身体中に残るキスマークと噛み跡と腰についた指の跡を見ながらげっそりする。たぶん同じだけタイラーとジェイにも跡が残っているだろう。自分がこんなに流されやすい性質だったとは思いもしなかった。
仕事に行く着替えをすませ、仕上げにとハンガーに吊るしてある輪になったネクタイを選ぶ。と、後ろからするり、血色のいい手が伸びてきて「もう、横着なんだから」と一本攫っていった。ジェイが「ネクタイ、シワが癖になっちゃうよ」と輪を解いて布を伸ばし、ミルズの首に引っ掛けて結び直す。
「楽だしいーだろ。忙しいんだよ、朝は」
「だあめ。服装には人柄が出るんだから。今日から僕が結んであげる」
あと、ネクタイの柄、趣味ちょっとわるいから今度買い直そうね。なんて続けるジェイにむっとしながら、けれど、スーツを着た彼はモデルか俳優かと思うほど綺麗なので何も反論出来ない。その光景を、タイラーがベッドの隅に寝転がってにまにまと眺めている。
「いいねえ、眼福眼福」
「君も着たらいいのに、スーツ」
「俺はネクタイとかガラじゃねーの」
首輪はごめんだぜ、と言うタイラーに、ジェイがため息をついた。きっと彼を着飾りたくてしょうがないのだろう。その欲求をミルズで解消しているふしがあるのは否めない。まあいい、大人しく着せ替え人形するのも楽しい。なにせ、ネクタイを結び終えてミルズを眺めるジェイの顔は、ほうっとうっとりしてなんとも可愛らしかったので。
──流されてるなあ、俺。
この調子で行くと、例のクリスマスの策略にまんまとハマってまたやりすぎるんだろうけど、ジェイとタイラーの喉仏にお揃いでついた赤い跡を見たら、それもまあいいか。と諦めが勝ってしまった。そんなミルズの喉仏にもふたつ跡が残っていて、職場で「昨夜はお盛んでしたね」とからかわれるのだが、いまはまだ知らぬが仏なのであった。