例年より派手なクリスマスパーティーから帰宅したリックは、着ていた夜会用スーツのボタンを外してソファにどっかと座り込んだ。とにかく疲れていた。
あのヒッピー事件以来、ひっきりなしにあちこちから声が掛かり、仕事も私生活も(電撃離婚を除けば)順調だった。いや、順調すぎた。今夜のパーティーなんかがそうだ。仕事以外の予定までぎっしり埋まっていて忙しすぎる。とくに、クリスマスみたいな一大行事となれば後々のためにもばっちり決めて行かねばなるまいと、スーツを新調したくらいだ。
「つっかれたよなあ」
「ああ、よく頑張ったよボス」
同じく新品の夜会用スーツに身を包んだスタントダブルを見上げれば、子どもを甘やかす母親みたいに慈愛を含んだ目でそう言われた。けれど、リックは慣れているので「なんかこいつ顔が甘いんだよな」と思うだけだった。それより酒を飲み直したい、とねだる。パーティーでは話ばかりしてろくに酒を飲めなかったのだ。
「んー、ビールあったっけな」
「買ってある」
「さすがクリフ!」
冷蔵庫から取り出された六缶パッケージのチャタヌーガを二缶開け、何度目かの乾杯をする。といっても、クリフとするのは今夜はじめてだった。「お前もお疲れ」と声を掛けると、彼はそれが最高の賛辞だと噛みしめるみたいに「ああ、ありがとう」とはにかんだ。
いつものアロハシャツにジーンズなら、安いビールを飲むのがとびきり似合うというのに、いまのタキシードを着たクリフはびっくりするくらい缶のビールが似合わなかった。元々の顔立ちがいいのとスタイルがとびきりいいのも相まって、今夜の格好は誰もが二度見する姿に仕上がっていた。「髪も整えてやろうか」とも言ったが、「よしてくれ、慣れない格好でまいっちまう」と逃げられてしまった。でも、ランディ夫妻も仰天していて面白かったのでよしとしよう。
「お前と一緒に飲んでるときがいちばん落ち着くよ」
「おいおい、褒め殺しか?」
「いーや、本音だよ」
──俺がドラマで人気絶頂期だったときも、映画に鞍替えしていまいちだったときも、そのあとの沈んだ何年もの日々も、ずっとそばについててくれたじゃねえか。
口には出さずとも、クリフは汲み取ってくれたらしくゆっくり頷いた。その目はやっぱり甘ったるくてとろけるようで、リックには心地よかった。こうしてまた人気を取り戻し、俳優リック・ダルトンとスタントダブルのクリフ・ブースとしてロデオを再開出来たことに嬉しさを感じ、もう一度心の中で「乾杯」と呟く。俺たちの道が何処まで続くか分からないけれど、とにかくいまはこの勝利にも似た余韻を楽しみたかった。
リックがまったりと酒を飲んでいる横で、クリフは舐めるようにビールを飲んでしみじみとこの瞬間を噛み締めていた。一度は別れ道を行ったふたりが、いまこうして揃いのスーツを着て同じ酒を飲んでいる。奇跡みたいな夜だ。クリスマスの奇跡なんていうけれど、クリフは信心深くもなんともないので、ただじんわりと胸に広がるあたたかさにため息をついた。
「なあ、今年いい子にしてたお前にプレゼントやろうか」
酔いの回ってきたリックがクリフに尋ねる。いきなりのことで缶を持ったままきょとんと固まったクリフは、しばらく考えている様子だったけれど、「あんた。あんたがいいよ、この先もずっと」と、またあの甘ったるい目を細めてはにかんだのだった。