──いい子は天国にイけるけど、わるい子は何処までもイけるんだって。
甘くて柔らかな声が、そっと鼓膜に響く。
びくんと反応する肉体。これから自分が何をされるのか、脳の言語中枢を通して理解した途端、ミルズは怖気づいて知らないうちに後ずさっていた。こわい。好きなひとに愛されることが。いや、好きなひとに、抱かれるのが。
「怖がらないで……と言っても、はじめてだから難しいよね」
甘くて柔らかな声がもう一度、鼓膜をとろりと撫でる。
逃げたくなるような、しがみつきたくなるような、相反する衝動に駆られて動けない。服をすべて剥ぎ取られ、無防備な裸体を晒したまま硬直している状態は、なんだか間抜けに思えた。コブも同じく生まれたての姿でいるのに。ああ、違う。彼女のあそこ──下半身には、ペニスを模した玩具が生えていた。ペニスバンド。いわゆるペニバンというやつだ。つるんとデフォルメされたフォルムの、ピンク色をしたディルド。ショーツのように履いた革製のハーネスによって支えられているそれは、自分のものよりちいさいとは言え、彼女についているのはものすごく違和感とそれから……何かいけない情欲をそそる風情があって。ごくり。ミルズは、いつの間にか口内に溜まっていた唾を飲み込んだ。
そろり、白くて細い指が内腿を辿って両脚を割る。
コブは、ミルズの股ぐらにするりと入り込んで、萎えたままのものに手を添え「どうしても怖かったら、やめようか」と上目遣いに最後の念を押した。たしかに、こわい。男のもの(たとえ偽物だとしても)をケツに突っ込まれるなんて、想像しただけで気分が悪くなる。なるのに、コブが「したい」と望むなら叶えたかった。いつもは彼女が受け入れてくれるのだし、一回くらいならしても構わないと折れる気持ちもあった。
「やめません……か、覚悟決めましたから」
腹をくくって宣言したミルズに、コブが嬉しそうな顔をする。
うんと大切に抱くから、と豊満な胸に顔を押しつけられて赤面するのもつかの間。ミルズは、のちに自分の決断が正解だったかどうか悩まされることになる。
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コブの細くて長い中指が、専用のローションをたっぷりとまとってミルズのアナルに差し込まれる。言われた通り洗浄はすませたものの、不浄の場所に彼女の指が入る様子を見るのはいたたまれなかった。くにくにと中で動くのにも違和感しかなくて、気持ちよくさせようと一生懸命な彼女に申し訳ない。慣れたらさっさと突っ込んでもらって、コブの気がすめばいい。そう思っていたのに。
「ッあ、あ?」
ぞく、と背筋に悪寒のようなものが走る。一瞬でよく分からなかったが、もっと感じたいと思わせるような感覚だった。コブが指の動きをとめて「いまのとこ、気持ちよかった?」と訊いてくるけれど、いまいち判断できなかったので曖昧に頷いた。「はじめてだから上手く感じられないのかな……こっちも弄ってあげよう」言うや否や、ミルズのペニスを片手で扱きながら、彼女はアナルも刺激しはじめる。
「ね、おちんちんしこしこされると気持ちいいでしょう? 後ろもしこしこされると気持ちよくなれるんだよ? 恥ずかしいことじゃないから、ね?」
子どもに言い聞かせるみたいな隠語で喋るコブにどきどきしてしまって、ミルズは思わずペニスを硬くさせた。
──おしりのなか、うずいてきたね? じわじわ気持ちいいの広がってきたね? ほら、ゆっくり呼吸して、きゅっきゅってなか締めてみて? 上手、じょうず。もうおちんちん触らなくても気持ちいいね。
気づけば、ペニスへの刺激がなくても快感を拾っていた。
鈍くうずくような心地よい痛みが、腹の奥からつきんと湧いてくる感じ。知らない感覚だった。こわいような、快いような。けれど、ミルズが怖気づくとコブがそれを悟ってすぐに慰めてくれる。大丈夫、いい子だね、気持ちいいだけだから、恐れないで。眠れない夜に囁く子守唄のような柔らかく優しい声に安心して、身体の強張りをほどいていけば、痛みはゆるやかな官能となってすべてを包み込んでいくようだった。
「あ、ああ、ッンああ!」
身体がびくんびくんと痙攣して、腹の奥がうねりながら震える。いままで感じたことのない快感に貫かれて、射精もせずにミルズは絶頂に達した。なかに咥えたコブの指をきゅうきゅうと食い締め、そこではじめて彼女の指が三本も入っていたことに気づく。シーツを握った手は力が入りすぎて白く血の気を失い、半分白目を向いて意味のない言葉を叫ぶ自分をぼんやりと感じていた。
「ん、おしりでイけたね。とってもえらいね」
いい子いい子、と頭を撫でられると、それにすらぴりりと感じてしまってちいさく身体を震わす。なに、これ、おれ、しらない、こんなの。戸惑いながら細切れに言葉が出てくるのを、コブは「メスイキって言うんだよ。いつも君がわたしのことナカイキさせてくれるでしょう、あれと同じだよ。大丈夫、変なことじゃないからね」と耳元で囁きなだめてくれた。めすいき……オウム返しに口にすると、彼女はうっそりと目を細めて「今度はこれでメスイキしようね」と、下半身に装着したペニバンをゆっくり撫でた。
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「〜〜ッ♡♡あ、いくっいく♡♡」
「ああ、かわいい、デイヴィッド、すごくかわいい」
コブが腰を動かすたびにピンク色のディルドが見え隠れして、腹のなかで前立腺を圧迫する。ここを押されると気持ちいい、ということを肉体が覚えてしまったので、二度目の絶頂はあっという間だった。三度目にはペニスに触れられることなく射精してしまった。頭がふわふわとして、心地よい疲労感に身体は沈み込みつつある。なのに、男のものと違って萎えることのない玩具は、硬さを保ったままなおもミルズの胎内をいたぶり続けた。
「ん、ん、いった、もういったからあ♡♡あ♡♡」
「もういいの? まだ欲しいってきゅんきゅんしてるよ?」
コブが動きをとめてディルドを抜こうとすると、ミルズの奥は物寂しさにきゅうんと切なくなった。「あ、はな、はなれらいれ、おれ、まだ……」舌っ足らずになりながら慌てる彼に胸がときめき、コブは自分の乳房にうずめるようミルズの頭を抱き寄せる。
「離さないよ、大丈夫、ずうっと側にいるから安心して」
「ん♡ん♡こぶさん♡すき♡♡すき♡♡」
白い乳房にすがる様子は、乳飲み子のようで。母性がくすぐられたコブは、そのままミルズの口に自分の乳首を含ませた。ちう、と控えめに吸いつくそれは技巧もなにもないただの授乳だった。なかば眠りに落ちそうなとろんとした眼差し。ゆるく勃起したままのペニスがつらそうだから、と優しく扱けば、勢いのないとろとろとした射精をしてくったりと萎えた。けれど、コブは手をとめず先端をくりくりと弄り続ける。
「はあ、あ♡それぇ、きもちい♡♡」
もう抵抗することも拒絶する台詞も忘れてしまったミルズは、素直に彼女の手から快感を享受する。柔らかなタッチで根気よく刺激されると、だんだんくすぐったいような逃げ出したいような感覚に陥り、力の抜けていた身体がしだいに強張っていく。がくがくと腰が上下に揺れ、コブにしがみつく両腕にも力が入る。
「? あ、こぶさん、おれ、だめ、これ……おしっこでる、でるからあ、」
じれったいような尿意に似た感覚。下腹に力を入れて我慢するも、じわじわとせり上がってくる何かはとまってくれない。だめ、はなれて、よごしちゃう、だめ、おねがい。さっきまでのまどろみから一気に目が覚めてしまった。彼女の前で粗相できない、という一心で耐えていたのに。ぐり、と強めに尿道口をくじられた瞬間、ミルズのそこは決壊した。ぷしゃッとコブと自分の腹を濡らしながら、目眩のするような快楽に落ちる。
「ね、離さないって言ったでしょう?」
耳たぶをかじりながら、彼女の柔らかな声が鼓膜を犯す。
ぐるりと白目を向いて息を詰めるミルズは、つつつと下腹をなぞるコブの指にびくんと反射で感じ入っていた。
「ここ、いちばん奥にも、気持ちいいところがあるんだって」これじゃ届かないけれど、次はもうちょっと長くて太いの試してみようか。囁く声色は天使のように優しいのに、誘惑の中身は悪魔のように残酷だった。
「も……っとわるい子になろうね、デイヴィッド」
意識を手放す寸前に聞こえた台詞で思い出す。彼女が最初に言ったこと──いい子は天国にイけるけど、わるい子は何処までもイけるんだって。
──もっとわるい子になっても、おれから離れないでいてくれる?
口に出せないまま、ミルズは沈むように眠りに落ちた。