ABOUT
こちらは、コンギャツの「心中」をテーマにしたアンソロジーです。
銀幕の大スターと謎の資産家──バビロンのジャック・コンラッドと華麗なるギャツビーのジェイ・ギャツビー。時代の近いふたりのクロスオーバーを、心中というテーマでそれぞれの執筆者が紡ぎました。
*実在の人物・団体・映画公式及び関係者とは一切関係ありません。また、心中に関わる行為を推奨するものでもありません。ご理解のほど、よろしくお願い申し上げます。
BOOK
C’est la vie!
R18/イラスト&小説/A5正方形/156P/1,000円
ノベルティ(クリアしおり)付き
MEMBER & SAMPLE
*掲載順/敬称略/クリックで拡大します。
▼るり/カラーイラスト

▼タレ目犬/カラーイラスト

▼田中/小説
歩く度、かさりと落ち葉が音を立てる。地に落ちたシャンデリアは輝きを失い、かつての煌びやかな面影はどこへやら。すっかり廃墟と化した豪邸は、まるで時に置いて行かれた過去の遺産のよう。
この世で最も魔法に満ちた場所
ジャックはツタの這う柱に寄りかかり、対岸を眺める。
かつてのギャツビー邸は、この世で稀にみる魔法で満ちた場所の一つだった。
***
──1922──
「ウェスト・エッグに、城のような豪邸が建っているんだ。今夜パーティーが開かれているらしいんだが、一緒に行ってみないか?」
初めてその場所に足を踏み入れたのは、NYプレミアの夜。ジョージからの誘いがきっかけだった。
そのパーティーの主催者は、ジェイ・ギャツビーという男。一夜にして財を成した正体不明の男が、城のような豪邸で開くパーティー。なんでもNY中から大勢の参加者が詰めかけるとか。ジャックは噂こそ耳にしていたものの、特段気にしたことはなかった。西海岸と東海岸はあまりにも遠く、LAにだって豪華なパーティーはあるからだ。だがあまりにもジョージが期待に満ちた目で見つめてくるものだからジャックは行くと頷くことしかできず、二人はあれよあれよという間に車に乗り込み、NY郊外の豪邸へ向かっていた。
開発途中のアメリカの光と闇を横目に、夜道を駆ける。不気味な目が見張る町NY。灰の谷を通り過ぎると雰囲気はガラッと変わり、開発途上都市から打って変わって豪邸が立ち並ぶ一等地へと姿を変える。おそらくパーティーに向かっているであろう車列を横目に進んでいけば、手入れされた木の向こうに輝く城が姿を現した。まるで映画の世界だ。豪華な門を抜けるとそこには、LAとは違った輝きで満ち満ちていた。若者から各界のセレブまで客層は幅広く、仮面舞踏会のように身分を隠すことなく、己のあるがままで楽しむ。LAのパーティーはまさしく狂乱だが、このパーティーには気品めいたものを感じた。騒然とした夢のような場所であることに変わりはないが、どこか上品な空気が漂い、洗礼されている。
▼Honey/小説
俺の名前はジョン・スミス。ジョンとでも呼んでくれ。
鬱くしい人生
これから話すのは俺の友人ジェイ・ギャツビーと、彼の友人ジャック・コンラッドの物語だ。え? 二人は恋人同士じゃないのかって? そうだな…まあ、俺の話を聞いてくれればきっとわかるよ。
俺は小説家を目指す一人の男だった。
恋愛ものからミステリー、SFだってなんだって書いた。売れるため、世の中に俺の作品を知らしめるためさ。
この二人の物語はどんな小説だって敵わないほどに幻想的で美しかった。俺には書けない、そう思ったよ。
でも、彼がこう言ったんだ。「君に僕たちの物語を紡いでほしい」って。だから俺は書くことに決めた。
*
ある日、姉の新居があるニューヨークに向かった。フィアンセと過ごす事になった新居は白を基調とした綺麗な家で、純粋無垢を色にしたらこんな色になるんだろうという色をしていた。俺には眩しく感じたのをよく覚えている。
許されない恋だった。
deathtiny
愛して愛してやまない人。
愛おしそうに僕を見つめて、優しく触れてくれる人。
一夜限りの関係でも構わない。そう思った。
「初めましてギャツビーさん。ジャック・コンラッドです」
画面の向こうでよく見る笑顔でそう告げて右手を差し出してくる彼に、僕はどうしようもなく惹かれてしまった。
「初めましてコンラッドさん。よろしく。ジェイと呼んでください」
握手を交わした彼の手は大きく、見た目より柔らかい手をしていた。
「そうか、では俺もジャックと。素敵なパーティーだ。毎晩開いてる?」
「ありがとう。ええ、基本的には。貴方が来るならもっと豪勢にしたのに」
僕の言葉に照れ臭そうに笑う彼はとても素敵で、いつもより早い心音がバレないようにと願いながら酒瓶を手に取る。
「ああ、すまない」
グラスを掲げる彼に微笑みかけ、ゴールドの液体を注いでいく。しゅわしゅわと弾ける泡のように儚い時間だと理解しつつ、いつまでも続けばいいのにと願ってしまう。
▼ゆたぽん(主催)/小説
──ジャック・コンラッドとジェイ・ギャツビー、事故死か心中か。
その、愛について
その日の新聞をにぎわせたのは、銀幕の大スターと謎の資産家の死であった。警察の見解ではコンラッドとギャツビーの死は「事故」とされているが、ゴシップ誌は「心中」と表記した。なぜなら、ふたりは愛人関係を疑われている渦中に、車ごと崖から落ちたのだから。
現場検証をしていたとある警察関係者は、記者にこう語った。
「運転席にコンラッド氏、助手席にはギャツビー氏が座っており、どちらの足元にもシャンパンとウイスキーの空き瓶が落ちていたと見られる。数は不明。なにせ、ほとんど車の外に放り出されてしまっているからね。でも、一本や二本じゃなさそうだ。酒酔い運転の悲劇だよ」
道路の状況から、コンラッドの愛車――白の車体に真紅の外装をまとったデューセンバーグは、最高時速一九二キロにほぼ近い速度でもって断崖絶壁へ向かったと見られる。ブレーキ痕はなく、蛇行運転の跡も見られない。完全にアクセルを踏み込んだまま、まるで迷いなくまっすぐ虚空を目指したとしか思えない。
「先に道があると勘違いしたか、ドリフトに失敗したか。もしかしたら、ほんとに二人して死ぬつもりで突っ走ったのかもしれないけどね」
その人は眩しかった。
Alone Together
大衆の中でもひときわ目を惹く気品のある相貌、王者の風格ただよう振る舞い、そしてなにより、ジャックの心を捉えたのはその笑みだった。「ようこそ、ねえ君」花火の舞い落ちる光に照らされて、彼の姿は輝いて見えた。「世界中の誰よりもあなたを待っていた」というような極上のとろける微笑み。それが、胸に刺さった。きっと彼は誰に対してもこの顔で迎えるのだろう。けれど、これより先はどうか自分だけに微笑みかけてほしいと願ってしまう――こうして、ジャック・コンラッドはジェイ・ギャツビーと出会い、その夜のうちにひと目で恋に落ちてしまった。
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──ジャック・コンラッド、また離婚!
新聞が面白おかしく書き立てた記事をぼんやりと眺めながら、ジャックは隣で眠るジェイの美しい寝顔の方が見るに値するな、と思っていた。見出しの通り、ジャックは先週、一年八ヶ月連れ添った妻と離婚した。理由は倦怠と消耗だと表向きには言っているが、ほんとうは彼だった。ジェイ・ギャツビー。正体の底知れぬ謎の資産家、ウォール街の王、すべての男が羨む人生の成功者。もちろん、こんなものは世間から見た偶像にすぎないが。その彼が原因だった。
百年近く前のサイレント映画を借りたのは、主演の俳優が恋人と同じ名前だったからだ。ジャック・コンラッド。歴史ものロマンスに分類される作品のパッケージを見れば、なんと顔まで彼そっくりだった。ジャズ・ピアニストに同じ名前の人がいるのは知っていたけれど、その人の顔は恋人とは全然違って、それはあたりまえ。だって、名前が同じ人間がいるのも顔が同じ人間がいるのもそれなりにある話ではあるけれど、名前も顔も同じ人間がいるというのは、すごく運命的だから、つい手が伸びてしまったのだ。
C’est la vie!
めずらしいね、そんなにむかしの映画を観ているなんて。と、恋人が言う。彼――僕のジャック・コンラッドも俳優で、ハリウッドの等級リストではかなり上位に入るスターだった。そんな人が、どうして僕みたいな野望はあれどもまだ何者でもない大学生を見初めてくれたのかいまだに不思議だ。けれど、出会った瞬間に「あ、僕はこの人と恋に落ちる」と感じたので、その直感を信じて彼の手をとった。
「知ってる? あなたと同じ名前の俳優なんだよ」
「もちろん。たまに聞かれるよ、先祖? みたいに」
「そうなの?」
「いいや、他人さ。偶然の奇跡ってやつ」
「ふうん」
