フラペチーノ愛情増し増しで

「チョコカスタマニアフラペチーノ、ミルクをブラベに、シロップをアーモンドトフィーに変更。チョコチップとブラックココアビスケット増量でホイップとチョコレートソースも増し増しに。あ、あと蓋はいりません」

 カウンター越しに魔法の呪文のような注文を終えて、オーガストが振り返る。「先輩は何を頼みますか?」と。トニーはいつもながら圧倒された(とも呆れたともいえる)表情で普段のように返す。「お前のおすすめは?」と。

「それだったら期間限定のチョコカスタマニアフラペチーノがいいですよ。いま頼んだカスタマイズだと先輩には重いと思うので、低脂肪乳に変更かつモカシロップにしましょう。ザクザクしたのがよければビスケット増量もおすすめしますけど、腹は減ってますか?」
「そうでもない。普通の量でいいよ」
「なら増量はなしで。あっでもチョコレートソースは増し増しで! なんていったってバレンタインですからね。おれからの気持ちです」

 にこやかに注文を繰り返す店員の女性がますます笑顔になった。「ではチョコレートソースは気持ち分ということで増し増しにしておきますね」なんて、こんな髭のでかい図体した二人を相手によく引かずに接客できるものだな。さすがプロ。などと照れ隠しにトニーが思っている間に、オーガストはすぐ横の受け取りカウンターまで移動していた。見れば、後ろが詰まっている。慌ててオーガストのもとまで移動した。

 昼過ぎのスターバックス店内は混雑していて、先に席を取っていなければ注文しても座る場所がないくらいだった。二人は店に着いたとき、ちょうど空いた窓際の席にコートを掛けて席を取っておいた。もうランチの時間は過ぎているのに、いや、むしろ過ぎているから、その後のデザートにでもと人が集まっているのだろうか。

 トニーとオーガストも、別の店舗でランチを済ませてから、まだ時間があるからとここに寄ったのだ。トニーにはすこし居心地が悪かったが、オーガストは気にしていないようだ。注文するときの慣れた口調からして、よく利用しているのかもしれない。トニーはコーヒーが飲めればそれでよかったが、なるほど、この期間限定の飲み物を目当てにみんな来るのだな、と後から同じものを注文していく人たちを見て、オーガストがすすめる理由に納得した。

 注文した品が出来上がっていく様子が、カウンター越しに見える。オーガストとトニーの分のフラペチーノが、するすると手際のいい手付きで出来上がっていく様子が面白かった。何やら呪文でカスタマイズしたオーガストの分は、ミルクの代わりにブラベミルクという生クリームに近い濃ゆいものが注がれていく。それだけでもだいぶカロリー過多に思えるのだが、さらにチョコチップとビスケットもトニーの倍は盛られていって、もう飲み物というより食べ物に近い外見になっていった。

「すごいな」

 「どうぞ!」と元気よく手渡された品を見比べると、ボリュームが全く違う。トニーのフラペチーノはきっちり蓋まで締まった普通のサイズだが、オーガストの方は蓋をするのは無理とばかりにホイップクリームがてんこ盛りにされて、トッピングも溢れんばかりに盛られていた。同じサイズを頼んだはずが、ワンサイズ大きいのでは? と言うほどだ。なるほど、それで蓋なしで頼んだんだな。と、トニーは勝手に感心した。

 席に座ってさっそく飲んでみると、甘ったるいチョコレートのフレーバーが口いっぱいに広がる。蓋を開けてストローの先のスプーンで中身をすくってみれば、ザクザクしたビスケットがアクセントになっていて、まるでチョコレートのサンデーだ。これは飲むデザートだな、とトニーが思っていると、オーガストが急に不安そうな顔をしてこちらを見てきた。

「先輩、やっぱりコーヒーの方が良かったですか?」

 黙っていたのが気になったらしい。見れば、目の前のデザートにも手を付けず、こちらの様子を伺っていた。「いや、自分だったら頼めないから、新鮮だなと思ってたんだ。美味しいよ」と言うと、安心したように自分のフラペチーノに手を付け始めた。「期間限定とか、シーズン物に弱いんですよね、おれ。なんだか、コンプリートしたくなって」という彼に、「ふうん」とぼんやり返す。ザックザックとビスケットを掘り起こしながらフラペチーノを飲む様子は、彼を実際の年齢よりもずっと若く見せていた。好物を目の前にしたときの子どもみたいだ、と思う。「ふふっ」思わず笑いが溢れていた。

「ん、何ですか」
「生クリーム。髭についてる」

 席に紙ナプキンが置いていなかったので、指で直接すくうようにクリームを取る。オーガストは途端に顔を赤くして、もごもごとなにか言っていた。「あなたって本当に無自覚なんだから」とかなんとか。

「バレンタイン、ありがとうな」

 ホワイトデーには何かお返しするよ、と言うと、オーガストは「ホワイトデーにも限定物が出ますから、また一緒に来ましょうね」と応えた。それまでに、彼をリードできる呪文が唱えられるようになるだろうか、などと考えながら、トニーは唇についたチョコレートソースを舐めたのだった。