「一生のお願いがあります……君のじ、自慰を動画に撮らせてください……」
「? おお? いいけど……何?」
「えっ、いいの?」
逆に断られると思ったら頼んでないだろ、と思ったが、ジェイは本気でびっくりした顔をして目をぱちくりさせていた。べつに、あんたの頼みならなんだって叶えてやるけど、俺の自慰──っていうかマスターベーション動画ってとこにはかなり疑問符が浮かんでいる。
「あの、来週から僕、仕事で二週間も離れてしまうだろう。その間、あの……慰めになるものが欲しくて……ネットに繋がない端末に保存するから……」
流出のことを心配して言ってくれているのだろう。まあ、世間に俺のちんこが拡散されても痛くも痒くもないが、ジェイが困るのは問題だから、管理は任せるとしよう。
「いまから撮んの?」
「えっ、と……シャワー浴びてからの方がいいですか?」
「いつでもいいけど」
「あ、じゃあ……お願いします……」
照れからか羞恥心からか、やたらと敬語になっている彼が面白かった。恥ずかしがるなら俺の方だろ? と思ったけど、いや俺は全然恥ずかしくないから代わりに向こうが赤くなってるのかも、と思い直した。
とりあえず、動画回すね。と旧型のスマホを手に取るジェイ。新型に買い替える前に使っていたやつだった。なるほど、もうここから流出対策をしていると。感心しながら、ぴこんと鳴った音を合図に撮影モードに入る。
「よー、ジェイ。仕事頑張ってる? はは、そっか、あんたはえらいなあ……なんかご褒美欲しい? ん、じゃあ……俺からいいモンやるよ。これ見て元気出してくれよ、な?」
小芝居である。
タイラー・ダーデンたるもの、とっさにこれくらいの小芝居が出来なくては──あっ、いまのはナレーションの奴が勝手に喋ってる台詞な。だって、ジェイが俺のシコってる動画でシコるんだろ? ちょっといい感じの導入とか入れときたいじゃん。何? AVっぽい? それがいいんだろ。目的はシコることなんだから──というわけで、監督・脚本・演出・主演タイラー・ダーデンのAVが始まった。
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タイラーがTシャツを脱ぐ。
引き締まった筋肉質な身体が明かりのもとに晒され、見事なシックスパックの腹筋が間接照明によって鞣された革みたいに光った。ごくり、無意識につばを飲み込んでしまう。続けてなんのためらいもなく、彼はジーンズとボクサーパンツをまとめて引きずり降ろした。ぼるん、とまろび出た性器は勃起していなくても大きくてほんとうにかたちが素敵だった。
──きゃ〰〰かっこいい……!
僕の中のときめく気持ちが猛然と湧き上がってきて悲鳴を上げてしまう。ベッドに腰掛けて、隣に座るタイラーを撮っている僕は、これまた無意識のうちに舐めるような視線で彼を画面に収め、同時にちらちらと生身の肉体も眺めてしまう。も、もうこれだけで元が取れたんじゃないだろうか……と思ったが、向こうは僕に構わず続きをしてくれるようだ。
「な、これ欲しいだろ。俺もあんたが欲しいよ。でも、いまは離れてるもんな……ン、せめて俺がシコってるとこ見て、あんたもやらしくシコってくれたらいいな」
うん、うん。思わず頷いてしまった。タイラーがゆっくりと見せつけるように自分のペニスを右手で持ち、先端をくりくりと指でこする。先走りがぬるぬると出てきて、そのぬめりでしだいに動きを大胆にしていく。輪っかにした指で、亀頭をぷちゅぷちゅ扱いて気持ちよさそうに唸る彼は、すごくかわいくていやらしくてそそった。
「はっ、あ、ジェイ……」
目を閉じて何かを反芻するみたいにまぶたをぴくりとさせるタイラー。僕の名前を呼んだっていうことは、もしかして、僕の妄想でその……ヌいてるのかな。だったら嬉しい。妄想の中の僕が彼に何をしているのかはわからなかったけれど、きっとタイラーの感じるところを舐めたりついばんだり触ったりしているのだろう。ああ、羨ましい。
「なあ、いまあんたのこと想像してんの。あんたのきつくてあったかいナカの感触を思い出してさ……ジェイのナカって、俺のこと大好き大好きって感じで締めつけてくるんだぜ? かわいいよな。前触んなくても、ケツだけでイけるもんな。ごちゅごちゅって俺がすげーたくさん突き上げるとさ、あんたはもっともっと、てナカうごめかせて俺のこと誘うんだ。やばい、思い出したらイキそ……♡♡」
タイラーが手を動かす速度を上げる。
右手でしゅこしゅこ竿をこすり上げながら、左手で亀頭から先端をぐちゃぐちゃに扱いて。「はっ♡はっ♡♡」と短い呼吸音が断続的に続き、固く閉じたまぶたがぴくぴくと動きを早めて。それに、半開きの唇が唾液でてらてらと光って艶めいているから。もうキスをしたくてたまらなくなって、でも、僕は魔法にかかったように動けなくて。だって、タイラーの痴態をこんなふうに見学することなんてはじめてだったから。
──ああ、すごく、すてき。
肉体美とあまりの堂々たる痴態にうっとりとしてしまう。
ちゅくちゅくした水音が反響するのまで動画に収まっていたらいいな。このいやらしい音だけでもイけそう。なんて考えていたら、タイラーが一瞬動きを止めて──あっ、と思ったときにはぴしゃりと白濁がカメラの横に掛かっていた。快感にふるふると震える腹筋、ぴくぴくと緊張する内腿の筋肉、そして、最後の一滴までどくどくと溢れる精液のしずく。
きゅん、と下腹が疼いて喉が乾いた。
「は♡はあ♡はあ♡♡ジェイ、見ててくれたよな……あんたのために出したザーメン、受け取ってくれよ……帰ってきたら、生ハメしまくって腹いっぱいにしてやるからな♡♡」
──きゃ〰〰やらしい子♡
ふたたび顔を出したときめきの気持ちが、もう許容量を越えて破裂しそうだった。うん、する♡♡生ハメセックスしまくってお腹いっぱいにしゅる♡♡♡
僕は動画を停止して、タイラーに「それっていまからじゃ……だめ?」と上目遣いに尋ねた。こうすると彼がさらに断りづらいとわかってのことだった。あんのじょう、タイラーは「だめじゃねえ、しよ♡」と僕を押し倒してきたので、スマホをベッドの脇に追いやって、生ハメ抜かずの六連発──今夜は満足するまで離さない──を開催したのだった。
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──あれはすごかったなあ……。
仕事で泊まっているスイートルームの浴室にて、先週のことを思い出しながら身体を熱くさせる。今夜はシャワーを浴びたらする! ぜったいする! と意気込んでいたので、よけいに下腹が熱を持ってだるい感じがする。
身綺麗にしたら、髪を乾かすのもそこそこに裸でベッドに倒れ込む。ぼふ、と豪快に行ってもスプリングのきしむ音すら立たない寝心地のいいマットレスは、今夜僕の身体をいっとき包む仮の恋人となるのであった。スマホとお気に入りのアナルバイブを片手に、どきどきしながら動画を再生する。
『よー、ジェイ。仕事頑張ってる? はは、そっか、あんたはえらいなあ……なんかご褒美欲しい? ん、じゃあ……俺からいいモンやるよ。これ見て元気出してくれよ、な?』
──はああああ♡もう元気出るぅ♡♡
きゅんきゅんきゅ〰〰ん♡と胸がときめく。この冒頭部分だけでも何度再生したかわからない。なにせ、一緒に住み始めてからいままで、タイラーとこんなに長く離れることはなかったのだから。でも、次の日の仕事に響いたら困るので、いつもほどほどにして動画をとめてしまう。しかし、明日は予定が入っていないので、今夜は思う存分いろいろな意味で堪能出来るというわけだ。
『な、これ欲しいだろ。俺もあんたが欲しいよ。でも、いまは離れてるもんな……っん、せめて俺がシコってるとこ見て、あんたもやらしくシコってくれたらいいな』
──うん♡シコる♡♡やらしくしちゃう♡♡
普段だったら、たとえ脳内でも卑猥な言葉を使うのは恥ずかしいのに、いまは別だった。タイラーの言葉をオウム返しに脳内再生して、ちょっぴり口にも出してみる。「シコるからぁ♡見てて♡♡」とか。うう、恥ずかしさが快楽のスパイスとはよく言ったものだ。僕のペニスはタイラーの声で痛いほど張り詰めていた。
──これだって、彼はすごくやらしい呼び方をしていたっけ。
ジェイのちんこは綺麗だよなあ、かたちがいい。俺が握るのにしっくり来る。もしかして、俺のためにこんな美ちんに生まれてきたの?──とか。ううう、わけがわからないほど恥ずかしい。
でもさ、もう役に立たないんだよな。もう誰かに挿れることもない。俺がヌいたりしゃぶったりするためだけにあるちんこだもんな。だって、ジェイはこっちより……ほら、後ろの方が気持ちいいもんなあ。
──ああ、そう、そうなの♡だからバイブなんか持ってきちゃったの♡♡
動画の中のタイラーが僕の名前を呼んでいる。僕は浴室で準備してきたそこへ指を差し込み、あらかた慣らしてあるのをもう一度確認するように拡げた。よし、大丈夫……と、かたわらの黒いものを手に取る。シリコン製のアナルバイブは、タイラーのもの(とってもやんちゃなおちんちん♡)より柔らかくてぷにぷにとしているけれど、かたちはさすがに快感を引き出すためのつくりをしているだけあって挿れれば圧迫感がすごい。
『なあ、いまあんたのこと想像してんの。あんたのきつくてあったかいナカの感触を思い出してさ……ジェイのナカって、俺のこと大好き大好きって感じで締めつけてくるんだぜ? かわいいよな。前触んなくても、ケツだけでイけるもんな』
タイラーの台詞に、ぬぐぬぐと奥まで飲み込んだバイブをきゅんと食い締めてしまう。はあ♡これでいっぱいしつけられちゃったもんね♡♡思い出すだけでもイきそうなしつけの内容については割愛するけれど、もう何度も使ってきたそれは僕のナカをよく知り尽くしているからあっという間に最奥までたどり着いてしまった。
『ごちゅごちゅって俺がすげーたくさん突き上げるとさ、あんたはもっともっと、てナカうごめかせて俺のこと誘うんだ。やばい、思い出したらイキそ……♡♡』
──僕もイきそう♡♡
彼の激しい律動を自分の手では上手く再現出来ないから、バイブのスイッチを入れて振動を代わりに堪能する。ヴヴヴヴヴ! といきなり最大になったのは手違いだったけれど(いや、もしかすると理性が欲望に負けたのかも)、タイラーもよく突然どちゅ! と僕のナカで暴れるからそれを思い出してぴゅ♡と甘イキしてしまった。
「はああん♡たいら♡♡はげしぃ♡♡」
頭の中の彼にごちゅごちゅ突かれるのを想像しながら、バイブの持ち手を激しく動かす。振動と律動で胎内をぐちゃぐちゃにかき混ぜていると、まるでタイラーにぐちゃどろに抱かれているみたいで。脳がどんどん錯覚を起こして、「あ゙〰〰あったけえ穴♡」とか、「ジェイのナカすげえやらしいよなァ……淫乱♡」とか、「ケツだけでイけるだろ♡がんばれ♡♡がんばれ♡♡」とか言いながら、僕が泣いても突くのをやめてくれない彼の台詞が浮かんできて。
ぴしゃり、画面に白いものがついたシーンで、僕も頭が真っ白になって、びくんびくんと全身をおかしいくらい痙攣させて絶頂に達していた。
「はあ〰〰♡はあ〰〰♡♡あ゙ッあああ♡♡♡♡」
達したのに、手が滑ってバイブのスイッチを切れない。最大出力の凶悪な振動が、イッた直後の敏感な媚肉をぐにぐに絡め取ってさらなる快楽の坩堝へと叩き落とそうとしてくる。
「だめ♡だめえ♡♡もおおしまいっ♡」
なんとか本体だけを引き抜いて、力の入らない指でスイッチを切る。バイブの大きさ分だけぽっかりと空いたような気のする窄まりは、まだ痙攣がやまず、ぴくんぴくんと脈打っていた。とろとろと勢いのない吐精をしているペニス、胎内から出た途端に冷えてつめたくなっていく体液、おさめるべきものを失って急にせつなくなる下腹の奥。
「う、うう、たいらあ〰〰……」
タイラーに抱きしめてほしい。虚像に抱かれるなんてぞっとする。いますぐここに来て僕にキスしてほしい。いっぱい、いっぱい、いっぱい。無茶な願いだとわかっているのに、深く絶頂した後はその深さと同じくらい気持ちが不安定になってしまうのだった。こんなとき、彼が居たら安心できるのに──。
僕がめそめそ泣きながらシーツに包まっていたとき、なんとタイラーは僕の泊まっているホテルにやって来て、フロントで「ジェイ・ギャツビーの連れなんだけど、部屋に電話掛けてくんねえかな」と交渉しているところだった。
「そろそろ寂しくて泣いてるんじゃねえかと思って」
と、部屋に入ってきて開口いちばん、僕が欲しかったキスもハグもくれたし、なんなら二度目の生ハメ六連発(いや、十回くらいしたかも)──今夜は満足したって離さない──を開催したのだけれど、それはまだもうすこし後の話。