「ブラッド、おいで」
レオは、自分に身を寄せる馬の顔を撫でた。全身白毛のサラブレッド、たてがみはブロンドで、珍しい碧眼の美しい牡馬。ブラッドは、まだ牧場に来たばかりの種牡馬(しゅぼば)だが、何故かレオに懐いて離れようとしなかった。嫌われるより好かれた方が、飼育するぶんにはありがたいが、まるで人間の恋人のように寄り添って来るので、レオは最初すこし戸惑っていた。馬は賢い生き物だ。人間の言葉を理解するどころか、こころのなかまで見通しているような振る舞いをすることがある。だから、レオは「僕は牝馬じゃないよ」と言ってなだめるのだが、ブラッドはいつも聞き分けの悪いふりでかわしてしまう。
ブラッドは元競走馬で、あまりにも成績のいい走りをするので、怪我をしたり加齢で衰えたりする前に繁殖させようと、レオのいる牧場に運ばれてきた。ここは小規模の牧場だが、集まった馬はどれも優秀な種牡馬で、それぞれ専属のブリーダーがつく。ブラッドはとくに大事な種牡馬なので、懐かれているレオが担当を任された。やって来た当初、ブラッドはここを嫌がった。まだ現役で走れるのに、レースから引退させられたのだから当然だ。競争心が強く、走りたがりのブラッドにとって、種牡馬にされるのは不本意だったのだろう。けれど、オーナーはどうしても次の世代を欲しがったので、なかば無理やり牧場へ連れてこられてしまった。
輸送用トラックから下りてきたブラッドは、耳を後ろに倒して警戒しながら、触れれば蹴り殺さんといった雰囲気を漂わせていた。素晴らしい馬が来るというので待っていたレオは、それを見て悲しくなってしまった。人間の都合で生き方を左右される馬。仕方のないことだが、どうしても胸が痛む。だから、つい涙を零してしまった。と、ブラッドがいきなりレオに近づく。危ない、とほかのブリーダーが止めに入ろうとした瞬間、彼はレオの顔をべろりと舐めた。きょとんとしながら見つめると、いままでの殺気は何処へやら、ブラッドは長いまつ毛をゆっくりと瞬かせて「泣かないで」とでも言うように、レオを見つめ返していた。それが決定的となって、レオはブラッドの飼育を任されるようになったのだ。
「僕の何処が気に入ったの」
牧場をブラッドと歩き回りながら、レオは問いかけてみる。その言葉に応えるように、牧草を食んでいた彼は顔を上げてレオの脇腹に頭を擦りつけた。「一目惚れさ」とブラッドは言いたかったが、人間の言葉を話せないので、ヒヒンと鳴くに留まった。それでも、レオには何となく伝わったらしい。「そんなに好きなの? 牝馬じゃないのに? 嬉しくなるなあ」と言って、リラックスして横倒しになった耳を撫でた。ブラッドは、それを大人しく受け入れて「レオがおれの番ならいいのに」と思っていた。もうすぐ繁殖のシーズンだった。
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春から夏に掛けての牧場は忙しい。
繁殖用の牝馬が何頭もやって来るからだ。
この日のために大事に飼育されていた種牡馬は、繁殖小屋で牝馬と交配させられる。これがちょっとした大仕事で、牝馬が発情していない場合、まず本命の馬同士を交配させる前に当て馬と呼ばれる、種牡馬とは別の牡馬をあてがい発情を促す。牝馬がフェロモンを含んだ尿を出し、尻尾を上げて性器を開閉したら、当て馬を移動させて本命の種牡馬をあてがい交配させる。交配自体は二分以内に終わるが、それぞれの馬を誘導するために何人ものブリーダーが付きっきりになるので大変なのだ。
今日からブラッドの種付け仕事が始まる。
いちばん人気の種牡馬なので、一日に二頭の牝馬と交配させる予定が組まれていた。種付け期間は三ヶ月以上続くので、ブラッドにとってこれからの毎日は体力仕事になる。レオは、牧場に来た当初の彼のことを思うと胸が痛んだが、オーナーの意思には逆らえない。その日の朝は、いつもより早く馬小屋に行き、丁寧にブラッドのブラッシングをした。「君にとっては嫌な仕事だろうけど、きっと気に入る牝馬もいると思う。みんな健康で綺麗な子たちだよ」マズルを撫でながら話すと、ブラッドは耳をピンと立てて聞いてくれた。彼は自分の役割を理解してはいたが、納得はしていなかった。
──レオに種付け出来ればいいのに。
ブラッドはどんな牝馬よりもレオが好きだった。はじめて目にしたとき、青い瞳から涙を流す姿を美しいと思ってから、ずっとレオだけを愛していた。気持ちを鳴き声や仕草で伝えると、レオも嬉しそうに笑ってくれる。それだけで胸がいっぱいだった。しかし、自分は所詮、繁殖用の種牡馬。優秀な次世代を生み出すための種でしかない。レオはそんな目で見ていないと分かっているが、彼の仕事はそうではなかった。だから、不本意だけれど、せめてレオのために役割を果たそうと思っていた。
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ブラッドがレオに連れられて繁殖小屋に入ると、そこにはすでに発情した牝馬がいた。フェロモンの匂いが小屋いっぱいに広がっていて、牝馬の性器がくぱくぱと開いたり閉じたりして種付けされるのを待っている。ブラッドは、自分が興奮して勃起しているのに気づいてレオを見た。違う、こんな反応は間違ってる、と言い訳をしたかったが、レオに切なそうな表情で「大丈夫、本能だから。行っておいで」とマズルを軽く叩かれ、覚悟を決めた。これはただの仕事。ほんとうの交尾じゃない。頭のなかで言い聞かせながら、順番に二頭の牝馬に種付けをしていった。
「よく頑張ったね」
交配作業が終わり、牝馬とほかのブリーダーたちが去っても、レオはブラッドと繁殖小屋に残った。馬小屋に戻る前に、彼の仕事を労ってあげたかった。「ごめんね、困ってたよね。でも、ちゃんと種付け出来てた。立派な仕事だったよ」はじめての交配が終わったら、しっかりと褒めてあげることが大切だ。これから毎日同じことを繰り返すので、自信を持たせてあげたかった。ブラッドの首を撫でながら褒めていたら、彼は急にレオの腕から離れ、背中に回ってしまった。やっぱり、嫌だったから拗ねてるのかな。と思っていたら、突然お尻を鼻先で強く突かれた。
「ブラッド?」
どうしたの、と聞いてもブルルッと鼻を鳴らすばかりで分からない。興奮が収まらないのかもしれない。何とかなだめて馬小屋まで連れ帰ったが、馬房に入れようとしてもブラッドはレオから離れようとしなかった。「不安なのかな。大丈夫、明日も僕がついてるから」と言い聞かせたが、ブラッドは不満そうな顔をしていた。「こういうとき、話が出来たらいいのに」しばらくマズルに額をつけてブラッドと交信を試みてみたが、もちろん成功するはずもなく、同僚に呼ばれてレオは馬小屋を離れた。
一方、ブラッドは悲しくて泣きたかった。レオに求愛したのに通じなかったからだ。いつもは気持ちを伝えると嬉しそうに受け取ってくれるのに、今日は何度鼻先で「好き」と伝えても、レオは困惑するばかりだった。そればかりか、不本意な交尾を褒められる始末。もしかしたら、自分がほかの牝馬と交尾をしたから、レオはこころを閉ざしてしまったのかもしれない。違うんだ、あれはただの仕事。ほんとうは、君と繋がりたい。けれど、ブラッドの鳴き声は馬小屋の高い天井に響くばかりで、レオには届かなかった。
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「えっ、今日はお休み?」
「おう、来るはずだったトラックが事故ってな」
乗っていた人間は無事だったが、牝馬が怪我をしてしまったので引き返したそうだ。さいわい、軽症だったらしく、元気になったらまた種付けされに来ると言われた。今日は、そのトラックに乗っていた二頭と交配させる予定だったので、牝馬が来ないとなると種牡馬の仕事はない。最近、ブラッドの機嫌がよくないので、今日は一緒にゆっくり散歩をしてリフレッシュさせよう。もう一ヶ月も休まず種付けばかりしているから、彼も精神的に疲れているのかもしれない。馬は体力のある生き物だが、繊細なところもある。そう思って、レオはブラッドの馬房に向かった。
囲いのなかにある牧草地で、種牡馬たちが草を食んでいる。レオは、ブラッドの隣に並んでゆるゆると歩いていた。ほかのブリーダーは、基本的に散歩についていくことはないが、レオはブラッドが心配で付き添った。「毎日大仕事で疲れちゃったよね」といたわるように首を撫でたが、いつものように擦り寄っては来なかった。ところが「拗ねてるの? 今日はお休みだから、のんびりしようね」と口にした瞬間、ブラッドは耳を立ててレオの方を向いた。
──お休み! 今日は牝馬なし!
そうと分かれば、ブラッドの行動はただひとつだった。レオの背中をぐいぐいと押して、牧草地から出ようと促す。大人しく従ったレオは、行きたいところに行かせようと一緒に移動した。ブラッドは真っ直ぐ繁殖小屋に向かっていた。「今日はお休みだよ」と言ってもレオと小屋に入りたがった。仕方がないので、重たい扉を開ける。馬一頭分の隙間が空いたと思ったら、ブラッドはすぐなかに入ってしまったので、レオも続いて足を踏み入れる。今日は交配作業がないので、誰もいない。ふたりきりだ。
ブラッドはレオの後ろに周り、オーバーオールに包まれたお尻を鼻先で突いた。「どうしたの?」レオが不思議そうな顔で振り返ると、彼の性器が露出していた。「あっ」と思ったときには遅かった。ブラッドに押され、よろけるように小屋の壁に背中をつける。ブルルッと鼻を鳴らす音。興奮しているときの鳴き方だ。「まさか、発情してるの、僕に」ブラッドは、そのとおりだと言わんばかりに、歯を剥き出しにしてフレーメンをしてみせる。
好かれているとは思っていたけれど、そういう意味だったのか。レオは不思議と納得してしまった。恋人のように寄り添うのも、マズルを押しつけられるのも、お尻を突かれるのも、ぜんぶ求愛行動だったのだ。気づいて思い返すと、ブラッドはいつも自分に愛を囁いていた。鳴き声で、仕草で。胸がじんわりと温かくなった。「いいの? 牝馬じゃないのに?」ブラッドは「もちろん」と言うようにレオの顔の前で鼻先を縦に振った。そっと手を伸ばして柔らかい鼻に触ってみる。息があたってすこし指先が湿る。おずおずと顔を近づけて、マズルに口づけてみた。ブラッドが鼻を鳴らす。嬉しいときの鳴き方だった。レオはブラッドに「心配ないからね」と囁いて、小屋の扉を閉めに向かった。
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密室で、ふたりきり。
することはひとつだった。
レオはブラッドの胴体に回り込み、地面にぺたりと座り込んだ。目の前に勃起した馬の性器がある。長くて太くて、先がすこし平べったい特有のかたち。その先端から先走りが溢れていた。毎日交配する姿を見ていたはずなのに、意識して見るとほんとうに大きい。とりあえず、手を添えて、普通の人間が自慰をするときのように扱いてみようとした。けれど、片手でするには太すぎるし、乾いていて滑りがよくない。先端から先走りを伸ばしてみようとしても、ぬるつきが足りないので上手く扱けない。
「どうしたらいい?」
ブラッドに聞いてみても、困った顔をされた。どうにかしてあげたくて、レオは思い切って性器の先端を舐めてみた。ほんのり甘いような味がして、草みたいな匂いがする。変な味じゃなくてよかった。続けて咥えてみようと試みる。大きくて口に入り切らないけれど、唇と舌で刺激するとブラッドは喜んだ。しばらく舐めたり擦ったりしていると、彼は胴体をぶるりと震わせて射精した。びゅくびゅくと大量の精液が放出されて、顔に掛かる。シャワーでも浴びたみたいに髪まで濡れてしまった。
「あは、すごい量」
指で顔を拭いながら、ブラッドの後ろ脚を撫でる。またブルルッと鼻を鳴らして興奮を露わにしてきた。「分かってる、したいよね」レオは立ち上がり、小屋のなかを見渡した。大きな木箱が何個か隅に置いてある。「おいで」と言ってブラッドを小屋の隅に誘導すると、レオは自分の着ている服を脱いだ。オーバーオールもシャツも下着も、ぜんぶ脱いで、ブーツに全裸の格好になる。汚さないよう木箱の上に服を置いて、ブラッドに背中を向け、お腹のあたりまで高さのある箱の端に手をついた。両脚を広げて立ち、お尻を後ろに突き出す。なるべく牝馬に近い格好をすると、ブラッドは理解したらしく、ヒンと鳴いた。
いつも目にしていた馬の交尾を思い出す。 牝馬はまず、フェロモンを含んだ尿を出してオスを誘う。自分のものにフェロモンは含まれていないと思うけれど、ブラッドを誘いたくて下腹に力を入れてみる。我慢していたわけじゃないのに自然と尿意を感じて、しょろ、と地面に放尿してしまった。こんな場所でするなんて、恥ずかしい。いまさら羞恥心がやってきて、レオは顔に熱が集まるのを感じる。しかし、ブラッドはレオの匂いに興奮したようで、鼻息を荒くしていた。分かってくれた、とほっとする。ついで、片手をお尻に滑らせ、双丘を広げる。そこは、控えめにひくついて、種付けされるのを待っていた。
ブラッドがいななく。まるで襲い掛かるかのように後ろ脚で立ち、前脚を木箱の上にガッと乗せた。もちろん、レオを傷つけないよう気をつけたが、いきなり動いたので驚かせてしまった。びくりと大きく緊張したレオの背中を舐めたいと思った。はじめて会ったときのように、心配ないと慰めたかった。なのに、身体の大きさが違いすぎて、レオはブラッドの胴体の下にすっぽりと収まっているので触れない。もどかしい気持ちを表すように、ブラッドは唯一接触出来そうな性器をレオの双丘に擦りつけた。レオが「あン」と高い声で鳴く。牝馬と違って、レオの穴はちいさいし濡れていないので、上手く入れられなかった。
──レオ、レオ、助けて。
ブラッドが困っていると分かったレオは、自分の後孔に中指をあてがう。息を吐いて、そっと挿入してみた。ブラッドの先走りでぬるぬるしていたおかげか、何とか第二関節あたりまで入った。こんなところに何かを入れたことがないので、どれくらい広がるか分からないけれど、背後に感じるものからすると全然足りない。はじめは、素股みたいにしてあげればいいかと思っていたのに、いまはブラッドのものを受け入れたいと思い始めていた。後孔にもう一本、薬指を挿入する。先走りの滑りを借りて、ぬこぬこと指を抜き差ししてみた。異物を拒んでいたのは最初だけで、しだいに慣れてきたそこは、もう指を三本飲み込んでいた。
「あ、んん、だめ、もっと広げなきゃ……」
レオは焦っていた。人間の男相手ならば十分だろうが、馬相手には狭すぎる。小指まで入れて出来るだけ広げたが、心もとなかった。それでも、ほんのすこしでも繋がりたくて、レオは後ろ手にブラッドのものを掴む。「ごめん、ちょっとしか入らないかも」と片手で広げたままの後孔に性器を導いた。ぬるぬる滑って照準が定まらなかったけれど、先端がぴとりと窄まりにあたると、ブラッドは勝手が分かったようで、ぐっと一気に腰を押しつけてきた。
「ひゃああ!」
甲高い悲鳴が上がる。レオの後ろにブラッドの先端が入り込んでいた。「うそ、うそ、入ったの、すごい」涙が出そうに嬉しかった。やっとブラッドと繋がれた。ほんの一部だけれど、ちゃんと受け入れられたことで胸がいっぱいになる。「ん、あッ待って!」ところが、ブラッドは止まらなかった。激しく腰を動かし、もっともっと入りたいと性器を押し込んできた。「うッ、だめ、ぶらっど」ズッズッと、すこしずつ先端が直腸を擦り上げながら奥へ進んでいく。お腹の裏側あたりを擦られると、電流が走ったような快感が上ってきた。「ああッ、なにこれ、なに、あッううッ」木箱を掴む手に力が入る。ブラッドのものはそれ以上奥に入らなくて、ずっと同じところを刺激し続けた。
「やあ、あッ、ふうッ……んんッ」
レオの嬌声が小屋に響く。太くて長くて硬いものが、お腹のなかで暴れている。苦しくてつらくて、でも、気持ちよくて。ブラッドも気持ちよさそうに腰を振ってヒンヒンと鳴いている。君もいいの。だったら、僕も嬉しい。ぽろぽろと涙が出てきた。木箱にもたれ掛かって、ひたすら喘ぐ。下腹の奥がきゅんきゅんとして、確かにブラッドのものがそこにあると感じた。嘘みたい。しあわせ。レオが歓喜に打ち震えていると、どぷっと何かがなかに注がれた。「うッ」分かってる。ブラッドが射精して、レオのなかに種付けしているのだ。牝馬にするときは、一度注いだらすぐに抜いて、地面にばしゃばしゃと残りを溢してしまうのに。ブラッドは性器を抜かなかった。レオのなかにぜんぶ注ぎ込もうと、ぐいぐい押し込んでくる。
「うー、あ、あは、赤ちゃん出来そう……」
腹部がすこし膨らんで、まるで孕んでいるみたいだった。仔馬を産めたらいいのに。北欧神話に出てくる登場人物みたいに、馬になってブラッドの子どもを身籠ったら、きっとふたりと同じ青い目の仔になるだろう。ちょっとだけ想像してみる。白毛に碧眼の美しい馬。たてがみにブラウンが混じっていたら嬉しい。僕と同じ髪色。背後でブラッドがブルルと唸って前脚を下ろす。ずるりと性器が抜かれ、ばしゃ、と精液が溢れてしまった。太腿を伝って白いものが地面に吸い込まれていく。あ、もったいない。でも、そうだ。ブラッドは馬で、僕は人間。そもそもオス同士だから孕みなんかしない。一抹の寂しさを感じて、レオはつい下腹を擦った。
いつの間にか、ブラッドが隣に来て腕に鼻先を押しつけていた。「どうした? よくなかったか? おれじゃ駄目なのか?」心配そうに覗き込んできた顔の上で、たてがみと同じブロンドのまつ毛が、ぱしぱしと瞬いている。愛おしいな、と思った。
「ブラッド、すきだよ」
太い首に腕を回して、ぴったりと身体をくっつける。しなやかで、温かくて、ゆっくりとした鼓動を感じた。背中の毛を指で梳きながら目を閉じると、このまま眠ってしまいそうに心地いい。けれど、もう昼時になるはずだ。誰かが来ないうちに後片付けをして、服を着なければ。タオルも何もないので、シャツの下に着ていたタンクトップで身体を拭いた。なかに注がれたものも指を入れて掻き出す。ブラッドがちょっと怒ったような顔をした。「ごめん、もったいないよね。でも、お腹壊すから」マズルを撫でて謝ると、仕方がないとでも言うようにフンと鳴かれた。
「……また、しよう」
こっそりと耳打ちするように、顔の横で呟く。ブラッドは耳をピンと立てて「いいのか? 嬉しい!」と鳴いた。言葉が通じなくても、レオにはブラッドの言っていることが分かるような気がした。服を着て、乱れた髪を整える。地面に溢れた体液は、すぐに乾いてしまうだろう。それでも、ちょっとブーツで土を混ぜっ返しておいた。「お腹空いた? ご飯食べに行こう」小屋の扉を開け、ふたりで外に出る。春の柔らかい風が頬にあたって、草の匂いがした。口のなかで、ブラッドの精液の味を思い出してしまう。レオは無意識に唇を舐めて、次の交尾のことを考えていた──。
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「あーッ、はあ、はあ、あううッ」
ブラッドが後ろからレオのなかを突いてくる。
交配作業の後、ほかのみんなが小屋を離れたのを見計らって、ふたりはときどき繋がった。毎日牝馬に種付けしているというのに、ブラッドはレオとするときも元気で激しい。むしろ、牝馬よりやる気があるように思える。馬のスタミナってすごい。息も切れぎれに性器を受け入れる。前よりもほんのわずか奥に入るようになっていた。それでも、ブラッドのぜんぶを収めることは出来ない。ネットで調べたら、アナルセックスだと結腸という場所まで入れることが出来るらしいので、せめてそこまでは受け入れたいと思っていた。
交尾のたびに、自分が作り変えられていくようで、レオは毎回、怖いような、けれど、喜ばしいという気持ちで満たされる。もう、前を扱かなくても後ろだけでイけるようになった。最初にしたときは、自分の性器のことなんか忘れていたのに、ブラッドが舐めてくれるようになってはじめて射精の快感を思い出した。彼よりずっと量はすくないけれど、零さず飲み込んでくれるので嬉しかった。また、今日も種付けされる。お腹いっぱい彼の精液を注がれて、レオはとろりと蕩けた顔で背を震わせた。確実にブラッドのメスになっている感じがする。
「僕もぜんぶ飲めたらいいのに」
いつも、後ろに注がれるものを掻き出してしまうのがもったいなくて、何度か挑戦してみたのだけれど、勢いと量がすごくて飲み切れた試しがない。ぜんぶ身体のなかに収められたら、もっとブラッドのものになれる気がした。「そんなこと気にしなくても、おれはレオのこと好きだよ」と彼が鳴く。相変わらず、言葉は分からなかったけれど、愛されていることだけは確かに感じて、レオは微笑む。
「君が種牡馬を引退したら、ふたりだけの農場に引っ越そう。そうしたら、ずっと一緒にいられるし、誰からも隠れずに繋がれる。きっと楽しい毎日になるよ」
だから、それまで待ってて。君がよければの話だけれど。
レオが囁くと、ブラッドは耳を横に倒して「もちろん。だって、レオはおれのメスだろう」と鳴いた。いつかほんとうの番になって、夫婦みたいに寄り添って、ときどき彼に跨って草原を走る。想像するとしあわせな気持ちになった。ブロンドのたてがみを撫でながら、その日が来るのを待ち遠しく思う。ブラッドはレオの顔を眺めてゆっくりと瞬きをすると、まるで誓いの口づけのように鼻先を唇に押しつけた。