週末にギャツビー邸で開催されたクリスマスパーティーは、五千発の花火で盛大に幕を降ろした。深夜近くになってやっと招待客をすべて帰したジェイは、散乱する色とりどりの紙吹雪やテープ、皿、グラス、誰かの靴片方などを眺めてすこし寂しさを感じていた。いつもはこんなことないのに。きっと、肝心の人物が今夜現れなかったせいだ。
片付けをケータリング業者と執事に任せて、足早に自室へ下がる。熱いシャワーでも浴びれば、嫌な想像も流れ落ちてくれるだろうと思った。そう、嫌な想像──ラスティは、もしかしたら僕のことを捨てて別の誰かと過ごしているのかもしれない。ということ。
なにせ、彼はとびきり男前だし、かと思えば可愛げのあるところもあるし、犯罪者ということを加味しても女性なら放っておかないだろう。実際、ジェイと付き合うようになっても彼はあらゆる種類の女性と交流を持っているようだった。「ごめんな、仕事の付き合いだよ。俺にはジェイだけ」と、台詞だけ聞けば完全にジゴロのそれであるが、ジェイは信じていた。
「元カノとよりを戻していたらどうしよう……」
べつに、いままで関係を持った相手をすべて把握しているわけではない。ジェイはデイジーと映画スターの男性としか付き合ったことがない、とラスティに告白したが、彼の方は夫の葬式で喪主を務める妻と慰めに寝るような身軽な男だ。数えたらきりがないのだろう。長く付き合った女性の二、三人以外教えてくれたことはなかった。
「いまはあんただけ。これからもあんただけなんだから」
と、やはり完全にジゴロの台詞とキスで口を塞がれてしまえば、ジェイもうっとりとして信じてしまうのだった。ロマンティックで甘ったるい言葉によわいのだ。それに、彼のキスにも。ラスティに口づけられると、夢見心地でふわふわと足元が浮くような感じになる。それだけ、彼のことが好きなので。
浴室を出てバスローブを羽織り、髪を乾かすのもおっくうな気分でベッドにぽすんと倒れ込む。暖炉の火が暖かくて、寂しさと疲労感から眠ってしまいそうだった。うとうとしてまぶたが重くなってきたところで、きい、とベランダから繋がるドアの開く音がした。一瞬ひやっと外の寒気が入り込み、ジェイはぴゃっと飛び起きる。
「鍵が甘いよ」
ラスティだった。彼特有の、ちょっと口角を上げてへらへらして見える笑い方。それを見たら、なんだか安心してジェイはぽろぽろ泣いてしまった。彼が慌てて手に持っていた板みたいな包みを置いてベッドに駆け寄る。「日付を跨ぐ前に来たかったんだけど、ちょっと手間取ってな……いや、言い訳だ。不安にさせた? 大丈夫、ちゃんと来ただろ?」とジェイの手をとって口づけ、流れる涙を唇で拭ってくれる。
「さみしかった……」
ジェイが弱音を吐くのはめずらしい。よほど自分の不在が彼にとってダメージになっていたのだと思うと、申し訳ない気持ちと仄暗い嬉しさで愛おしくなってしまう。何処に居たの、何してたの、と矢継ぎ早に質問されて、「実は……」とかたわらの包みを開ける。それは、いつかラスティと一緒に美術館で見て気に入った絵画だった。
「明日の夜には返さなきゃならないけど」
今夜一晩はあんたのものだよ、と甘い顔で微笑む彼。このサプライズのために連絡もしてくれなかったの、と思えばちょっとずれているなあと思うけれど、ジェイは嬉しさと愛情が溢れて胸いっぱいになってしまった。だから、「僕の素敵な大泥棒さん」と言ってラスティに抱きつき、そのままシーツになだれ込む。そうしてそれを、絵画だけが見ているのであった。