ある朝、邸宅の住人が平穏な夢から覚めてみると、とある男たちは自分が、とてもちいさな子どもに変わってしまっているのに気づいた──。
「ありえない!」
マックスが頭を抱えている横で、アルドとクリフはアンフェタミンとレッド・アップルを取り上げられたことに不満を漏らしている。ドンとロイは冷静に状況を把握したものの、それで何かが解決するわけでもなかったので、大人しく成り行きにまかせることにした。五人は見たところ、五歳ほどの幼い姿に変わっていた。各々の相方は途方に暮れていたが、アーニーは遊び相手が増えたとばかりに手を叩いて喜んでいる。さいわい、頭のなかまでは幼い頃に戻らなかった。それだけが救いといえば救いだろうか。
「おい、そのケースをかえせ! 上かんめいれいだぞ!」
「いけませんよ、中尉。薬物は子どもの身体に毒です」
「なあボス、なかみは大人だぜ? 一本くらいいいだろ?」
「だ、だ、だめに決まってんだろ! クソ、何でこんなことに……」
ルイスとリックが有害なものを片付けているかたわらで、コブとダニーはやけに落ち着いていた。まあ、夢のなかと宇宙ならありうる事象だからな。と、適当な理由をつけて納得していた。パニックのあまり現実逃避をしてしまう人間の典型である。ひとまず、ぶかぶかになった服をサイズに合ったものに着替えさせた。ジェームズの子ども服があってよかった。
それぞれ困惑している面々をよそに、ドンとロイはアーニーに付き合って「せーんーそー!」と指遊びに興じ「なかなかきょうみぶかいゲームです」「たんじゅんに見えてせんりゃくがいるんだ」などと静かに盛り上がっていた。大人の嗜みを禁止されたアルドは、ルイスの膝に登って嫌がらせに眼帯を取ろうとしている。クリフは諦めて、うろたえるリックの肩に手を置き「まあ、しぬようなモンでもないし」と言って慰めた。いちばん困惑しているマックスには、コブがついて「きっと戻るから」と励ましている。これが、一時的なものなのか恒久的なものなのか判断はつかないが、しばらく保護した方がいいだろう。アーニーはドンの面倒を見ることが出来そうにないので、ダニーが代わりに買って出た。
「ガキの面倒ってのは、結構大変なんだな」
子育ての経験があるコブとルイスに教わりながら、慣れない育児のようなものに手を焼くダニー。けれど、もともと面倒見はいい方なので、要領さえつかめばこっちのものだ。体力のありあまるチビたちを適当にかわしながら、遅めの朝食を準備する。マックスとロイは手伝いたがったが、キッチンは危ないので食卓の用意を頼んだ。「おさらをならべおえました」と、ダニーのもとにやって来たロイは、褒めて欲しそうに青い瞳をきらきらさせている。もしかして、だんだんガキっぽくなっちまってるのか。そう思いながら、めったに見られない表情が可愛くてつい、ちいさな頭に手を乗せて撫でてしまった。「あ! ロイばっかりずるい!」突然、ドンが声を上げた。「ロイはずるい、ロイはずるい!」アーニーが真似をして囃し立てている。
「はあ? あんた何言って……」
普段の理知的な様子からは想像のつかない、ふてくされた顔をして走ってきたドンは、ダニーの左脚にがしっとしがみついた。それを見て、ロイも右脚にぎゅうとしがみつく。「ひとりじめすんな!」「ダニーはぼくのです!」「おっぱいすってるあまったれのくせに!」とうとう始まった口喧嘩の内容に、ダニーは赤面して唸った。何でドンが知ってるんだよ! と叫びたい気持ちをぐっと堪え、そのうち手も出しかねない二人の頭を掴んで、わしわしと髪を混ぜっ返す。
「喧嘩すんな。嫌いになっちまうぞ」
この台詞は効果抜群だったようで、ドンもロイもぴたりと黙った。すこし気まずそうに見上げてくる二人に苦笑して、いい子だな、とうなじを掻いてやる。くすぐったそうに笑う姿は、ほんとうに五歳の子どもになってしまったようだった。
「寝顔、ほんとガキだな」
ドンとロイを自室に引き取ったダニーは、背中を向け合って眠る二人をしみじみと眺める。いつもはすこし険のあるドンの顔も、表情に乏しいロイの顔も、いまはあどけなくて可愛らしい。ふと、遠いむかしに母親から読み聞かされた本の内容を思い出した。キスで呪いが解ける、ありきたりの物語。ちょっとした好奇心で試しに二人の額に口づけを落としてみたけれど、大人に戻ることはなかった。まあ、しょせんはおとぎ話ってか。ダニーは馬鹿らしくなって、ちいさな身体の間に並んで自分も眠ることにした。
──ところで、翌朝。
近くの部屋から聞こえた悲鳴にルイスが駆けつけてみると、ダニーがベッドの真ん中で、大人の姿に戻ったドンとロイにしっかりと挟まれたまま、身動きが取れずパニックに陥っていた。アルドはいまだ子どものままだったので、ルイスは「一体どうやったら戻ったんですか」と訊いてみたが、ダニーは何故か答えてくれなかった。