07. スイート・スイート・クリスマス

──あなたが子ども向けの映画を観ているなんて、めずらしい。

 そう、ジェイが目をまるくしてジャックの隣に座る。テレビの画面では、ふわふわの騒がしい生き物たちがモンスターに変異して、ちいさな町が大混乱に陥るシーンが進行していた。子ども向けにしてはちょっと残酷過ぎやしないか? とジェイは思ったけれど、ふわふわのよく分からない毛玉みたいな生き物はすごく可愛らしかったのでバランスはいいのかもしれない。

「つけたらちょうどやっていたんだ。わりと面白い」
「ふうん」

 それにクリスマス映画だし、とジャックが言い訳をしたら、ああ……もうそんな時期、と気のない返事が返ってきた。ジェイはこの時期、仕事関係の付き合いやら慈善パーティやらが目白押しなので、クリスマスという単語に嫌気が差しているのだ。

「この子たちを送り込んで、くだらない集まりなんかめちゃくちゃにしてしまいたい」

 ほんとうは、あなたとずっと過ごしたいのに。と、ずいぶん可愛らしい願いを口にする彼。

「俺だってそうだよ」

 仕事の付き合いなんて放り出して、ジェイとゆっくり過ごしたい。でも、それを叶えるにはふたりとも有名になり過ぎていた。ハリウッドの大スターと若くして財を成した青年実業家。仕事に慈善活動にと忙しく、パパラッチ抜きで息をつける互いの自宅で過ごす時間は貴重だった。いつまでも帰したくないとすら思ってしまう。

「いっそ、一緒に住もうか」
「なあに、クリスマスにプロポーズ? ベタだなあ」

 タイミング的に、そう受け取られてもいたしかたない台詞だった。それでも、ジャックは茶化したり撤回したりなんてしなかった。ジェイの左手をそっと持ち上げて薬指に口づけ、真面目な顔つきで「そうだな、そう。指輪はイブに選びに行こうか、愛しい君」などとのたまう。

「あなたって、ほんと気障ったらしい!」
「でも、そこに惚れたんだろう」
「ふふ、そうだよ。もっとラブロマンス映画みたいに僕を口説いて」
「仰せのままに」

 くすくすと笑うふたりは、もうテレビの画面なんて観ていなかった。モンスターたちは主人公とヒロインの作戦でいっせいに退治され、とうとう映画は佳境を迎えていたけれど、ふたりはお互いに夢中だったので気づきもしない。まだ一匹残ったモンスターを追う主人公たちを尻目に、ジャックはリモコンでテレビを切った。

 それが合図だったみたいに、ジェイが身体をもたれかけてくる。よく懐いた猫のように顔を擦りつけてくる彼はやっぱり可愛らしくて、ジャックは寄せられた唇に噛みついた。その味は、きっと今月いくつも食べることになるであろうどのケーキよりも甘い。砂糖もクリームもフルーツも、ジェイの唇には敵わないのだ。

「ねえ、指輪……きっとだよ」

 指を絡めながらほんのすこし心配そうに口にする恋人がいじらしく、ジャックはいまからでも宝石店に飛び込みたくなった。けれど、もうすこしこの時間を堪能したくもあり悩ましい。結局、翌朝いちばんで五番街に繰り出すことになるのだが、いまはまだふたり、身体を寄せ合って甘やかなキスを続けるのだった。