24. ファースト・クリスマス

 イブの夕方に買い物なんか行くもんじゃない。コブとジェイから聞いていたのに、ダニーは侮っていた。ワインが届いたけどつまみになるものがなかったな、と出来合いのオードブルを買いに来たスーパーは混み合っていて、会計にもう二十分も並んでいる。

──これひとつのためにあと何分並ぶんだよ……。

 手に持ったパックを見下ろしてため息をつく。このあと予約していたケーキの受け取り時間が迫っているのに、間に合わないかもしれないな。と思ったら焦りも出てきて。時計とにらめっこしてロイの退勤時間を確認し、どっちが早いか脳内で計算してみる。いや、間に合わねえな。仕方なくスマホを取り出し、メッセージをぽちぽち打って送信する。

──帰りにケーキ受け取り頼む、と。

 二分も経たずに「わかった」と返信が来たので任せることにした。ロイのメッセージは簡潔なので、はじめのうちはこちらも業務連絡みたいな文面ばかりだったけれど、スタンプを送ってみたら「かわいい」「どうやって送るの」と聞かれたので教えて。いまじゃ「さんきゅ」のスタンプに「おっけー」というゆるい犬のスタンプ(シバイヌとかいう犬種のキャラクターらしい。ちょっとロイに似ていてかわいかった)が返ってくるのだった。

 しかし、クリスマスなんて改めて祝ったことないから、どう過ごせばいいか分からない。ガキの頃、ほんとうに幼いときの記憶をたどれば、両親とツリーとプレゼントのぼんやりとしたかたちを思い出せる気がしたけれど、吹けば飛ぶようなものだ。傭兵時代を経て大人になり、密輸事業に手を出すようになってからは、あちこち飛び回って各国のクリスマスを横目にしていたかもしれないが、意識したことはなかった。人が多くて移動が面倒だな、くらいしか思わなかった。

──それが、いまじゃ自分で料理なんかしてやがる。

 ケーキをロイに任せたので、帰宅したダニーは仕込んでおいたチキンと付け合せの野菜をオーブンに入れる。ブライン液に漬けておいて焼くだけの簡単なローストチキンだ。面倒だから何処かで予約しようと考えていたが、今日のスーパーの込み具合を思えば受け取りも時間が掛かりそうだから作ってよかったかも。

「ダニー、ただいま。いい匂いがするね」
「おうロイ、おかえり。ちょうど肉焼けたとこ」

 ケーキ、受け取るのあんまり時間掛からなかったよ。と差し出してくる白い箱を受け取り、スペースを開けておいた冷蔵庫の棚に入れる。ついでにトマトと作り置きしておいたマッシュポテトを出した。メニューだって何が正解なのか分からないから、ググって出てきた簡単そうなやつを取り入れている。ロイに聞いたら、彼も「あんまりクリスマスの思い出ってなくて……」と寂しそうに眉尻を下げていたので、「まあ、俺たちのやり方でいいか」と初心者の手探りみたいな感覚でやっている。

 ダニーもロイも何処か欠けた部分があって、互いにそこを埋めあってみるけれど、それでもまだ欠けたままの部分があるからどうにもならなくて。誰かの真似事をして、しあわせの真似事をしてみて。でも、真似ているうちに自分たち独自のものになっていくような気がするから、あがいて。こんなこと、きっとひとりだったらしていない。ロイとふたりだから正しくしあわせになりたいと願うようになったのだ。

──ヤキが回ったよなあ。

 けれど、嫌な気はしない。ふっと笑ったら「どうしたの?」とロイが近づいてきたのでワイングラスを渡し、「いや、なんかさ……こういうのいいな」とはにかんで言うと、彼も「うん、いいね」とほころぶように笑って頷いてくれた。