クリーニング店の伝票が七枚もあれば、あの人はきっと三枚は失くしてしまうだろう。そんなことを思いながら、ルイスはチケットホルダーにまとめておいた伝票のうち、今日受け取る分のものを二枚サッと取り出す。あの人なら、スラックスのポケットにねじ込んでくしゃくしゃにしてしまうだろう。だから、自分が管理しているのだけれど。
──まったく、感謝してくださいよ。
ラブの部分がハートになった「アイ・ラブ・カスタマー」の袋に入ったシャツとコートを受け取り、礼を言って店を出る。今日はクリーニングしたものを届ける以外に用はないのだが、なんとなく、アルドのところに向かう日は気持ちがそわついて。いまだって、通りがかった菓子店に並ぶチョコレートを土産に買って行ったら喜んでもらえるだろうか、なんて考えている。
──だからアルドの犬、なんて呼ばれるんだ。
べつに悪い意味でのあだ名ではない。「ルイスは中尉を見ると尻尾を振って喜ぶ犬みたいになるんですよ」「顔はまったく無表情なのにな」「かわいいやつじゃないですか、ねえ中尉」と仲間内で揶揄されてつけられたものだ。ルイスだって、アルドと見るやどうしてか自分が犬みたいにない尻尾を振ってしまうのを自覚しているので、眉間にしわが寄るほどみんなのことを睨みつけたが、間違ってはいないのでまあまあ受け入れている。
吐く息の白くなってきた道を駐車場まで歩き、結局チョコレートは買わず、その代わりにドライブスルーでコーヒーの差し入れを買おうと思って助手席に洗濯物を置く。シワになってしまわないよう、背もたれの首にハンガーを引っ掛けて、慎重に車を発進させた。
──まだ礼服とセーターが控えてて……たしか受け取りは来週……仕事前に受け取って……。
頭の中で予定を組み立てるルイスは、アルドの部下であって秘書ではないのだけれど、トラブルの多い彼の世話を焼くうちに専属の秘書みたいになってしまった。最近では仕事の範疇を超えて、クリーニングの面倒まで見て、挙句の果てには「お前、俺の女房になるか?」と言われる始末。もちろん、「なりません」と冷たく言い放ったので何もないのだが。
あれが告白だったとしたら、かなり最低の部類に入る。と、ルイスは思い返す。身の回りの世話を焼いてくれるから、便利だから、あんな冗談を言ったのだろう。自分は心から彼を慕って、アルドのもとに配属されるため必死に試験や訓練をこなしたというのに。
──それでも、あの人に失望出来ない自分はきっと……。
職場に到着し、クリーニングのすんだシャツとコートとコーヒーを持ってアルドの部屋へ入れば、彼はいつもの面子の部下たちとトランプをしていた。
「ああ、ルイスか。シャツ? いつも悪いな」
「こっちのコートは何処に仕舞います?」
「いや、それはお前にだ」
ぴたり、洗濯物を仕分ける手がとまって、ルイスは隻眼でアルドを見つめる。ぱちぱち、瞬きでかろうじて驚いていることが分かる彼に、アルドは「お前に。いつも世話掛けてるから、なんだ、プレゼントだと思って受け取れ」と言ってにかっと笑った。
──ああ、この人は、もう……!
目尻を赤く染めたルイスに「中尉、またあの台詞言ったら落ちますよ!」「ルイス、今度は断るなよ!」「素直になれ!」と、仲間たちが囃し立てている。まったく、あの上官にしてこの部下ありだ。ルイスはとっくに降伏していたが、アルドが得意げな顔で「どうだ、今度こそ俺の女房になるか?」と言うのにすんなり「はい」と言うのは悔しかったので、「まだ、なりませんから」と答えたのだった。