14. 決闘、真昼のスイート・ルームにて

 プラザ・ホテルのキング・スイートに宿泊すること五日目。

 とうとう高級なルームサービスに辟易したタイラーが「ジャンクなもの食いたい。レストランのピザでもいいから」と白旗を上げた。彼はまだ六歳という年齢もあって、広いとはいえ部屋に籠もりっきりの生活にはうんざりしてしまったのだ。

「ごめんね、もう何日かすれば落ち着くから」

 ジェイが謝るのには理由があった。いまをときめくハリウッドの大スター、ジャック・コンラッドとの熱愛をパパラッチにぶち抜かれたのだ。それからは何処へ行っても無数のカメラがジェイ・ギャツビーを狙い撃つ日々。タイラーの通う学校の送迎にもつきまとわれ、とうとう我慢の限界を迎えた彼はホテル籠城作戦を実行したのだ。

 一代で財を成した若き実業家とはいえ、ジェイは一般人である。問題は専門家に任せ、しばらくここで人目を気にせず過ごしたいらしい。養父であるジェイが籠城するなら、養い子である自分も一緒なのは当然とばかりについてきたが、タイラーはそろそろ後悔し始めていた。

「すまない、ジェイ。君の自由を奪ってしまって……」
「ううん、いつかは知れることだったもの」

 それより、あなたがいてくれて嬉しい。と、ジャックが取った手に口づけるのをうっとりと受け入れるジェイ。タイラーは思わず、ゲェーッと嘔吐するジェスチャーをしてしまった。キザったらしくて見てらんねえとばかりに、隣の部屋へと避難する。

──おれがいたらどうどうとえっちもできねーのに。よくやるよ。

 昨晩遅くに部屋を訪れたジャックは、ジェイの勧めるまま一晩泊まっていった。「あの子はよく寝てるから……」と寝室から抜け出し隠れて浴室で事に及んでいたのを、タイラーは夜中のトイレに起きたときガッツリ見てしまった。なにせバスルームはガラス張りだ。そのときジャックと目が合ったので舌を出して中指を立ててやったが、ジェイは気づいていないだろう。

──まったく、気ィつかうぜ。

 窓に面したソファにぼすんと寝転がっていたら、「やあ、失礼」とジャックが入って来た。「ジェイはいいのかよ」とつっけんどんに聞くと、「ああ、このあと下でアフタヌーンティーをしようと言ってね、いま着替え ている」なんて完璧に人のいい笑顔で返してきた。

「君も行くかい?」
「行くに決まってんだろクソジジイ。ジェイの行くとこはおれも行くの」
「はは、まるでちいさな騎士だね」

 その騎士も、ほんものの騎士が来たら必要ないのだろうか。ジェイがジャックと結婚でもしたら、自分は邪魔じゃないだろうか。どんなに反抗しても手応えのない相手を目の前にしたら、ほんのちょっと気弱な気分になって、タイラーは唇を噛んだ。

──ジェイがとられちゃう……。

 そう思ったら、情けないことに涙が出そうだった。今年もいい子じゃなかったし、サンタなんか信じてないけど、クリスマスの願いごとを聞かれたら「おれからジェイをとらないで」と言いたくなった。だいすきなジェイ、おれのいちばんだいじな人。それがこの手を離れたら──。

 急にじわじわと涙をこらえ始めたタイラーに驚いたジャックは、けれど、同じ人を愛する者同士、通じるところがあったのだろう。「大丈夫、とったりなんかしないよ」と言ってタイラーを慰め抱きしめた……が、タイラーは大人しくライバルの腕におさまる子どもでもなく。

 ジェイが「どうしてこんなことになったの?」と呆れるほど、二人は騎士の決闘のごとき喧嘩を巻き起こし、部屋をしっちゃかめっちゃかにしてしまったのであった。