バリーのカウンセリングがある日は気持ちがうきうきと跳ね上がる。
レディバグは、にこにこしながら受付をすませ、ふとカウンターに置いてある個装のキャンディ・ケインに目が行った。赤と白の斜めストライプが可愛らしい、クリスマス定番のお菓子。あんまりあからさまに見ていたせいだろう。「よかったらどうぞ」と言われるがまま、三本ほど失敬した。受付の女性はちょっと眉をしかめていたけど、「クリスマスだよ?」という視線を返して手を振ったら何も言われなかったから、いいでしょ。ラッキー。
「というわけでね、バリー。今月は凍った路面で滑って仕事をしくじった以外は順調! めずらしいことだよね、僕の不運記録もクリスマスの奇跡で打ち消されたのかも。さっきだって受付でキャンディ・ケインをもらってね……」
まるで禅を体現するみたいに目を細めて話を聞いていたバリーが、突然きょとんとした顔をした。「それって子ども用の……いや、なんでもない。あなたが喜んでくれたなら、置いておいてよかった」と話す彼は慈愛そのものって感じだ。
──ああ、好きだなあ。
レディバグは、初診のときからバリーに惚れ込んでいたものの、その気持ちを伝えることは出来なかった。口にしようとするたび、不運な偶然(窓からハトが突っ込んできたり、バリーに異常な感情を抱いた患者が飛び込んできたり……エトセトラ、エトセトラ)が重なって伝えられなかったのだ。最後の事件はレディバグが対処して大変感謝された。最高の思い出のひとつ。
「前向きな気持ちになるのはいいことですね。きっとクリスマスの奇跡だけじゃなく、あなたの努力が実ったのでしょう。継続して幸運だった記録もつけていきましょうね」
「はい!」
元気よく返事をしたレディバグは、名残惜しくも浮かれて診察室をあとにした。もらったキャンディ・ケインをかろかろと舐めながら、支払いの呼び出しを待つ。
──ああ、思えばさっきイブの予定でも聞けばよかった。
この時点で、いまだ自分とバリーはカウンセラーと患者の関係である。ちょっと脈アリかな、と思う瞬間は(一方的に)感じていたけれど、彼にしてみればただ患者だと思っていた男からいきなりイブの予定なんか聞かれたら困るだろうか……と、それだけのことを思う常識は彼にもあったので、深くため息を吐くばかりだった。
「キャーッ!」
突然ロビーに女性の叫び声が響き渡る。受付の彼女が、銃を持った男に脅されていた。彼はなにやら「バリーを出せ!」とか喚いている。(えっ、バリーだって?)と考えるよりも先に、レディバグは身体を動かしていた。立ち上がって音もなく忍び寄り、癖で先が尖るように舐めていたキャンディをためらいなく男の頸動脈に刺そうとして──いや、血が吹き出したらバリーのオフィスが汚れちゃうな、と思い直し、キャンディを落として拳をこめかみにブチ当てた。それで解決。
男は平衡感覚を失って気絶し、銃を取り上げて弾を全弾ばらばらと出してから、受付の彼女に「あーっと、警察を呼んだほうがいいかも。あとダクトテープとかない?」と聞いた。反応はなし。代わりに、診察室から顔を出していたバリーが「すぐ呼ぶ。テープはカウンターの足元にあるはず」と言ってまた引っ込んだ。
あとから聞いたら、バリーに異常な感情を抱いた患者その二らしく、またしてもレディバグは大変感謝された。「お礼になんでも言って欲しい。叶えられることならその……」と言われて、そういうところが異常な感情を抱かれるゆえんなんだろうな~~とは思ったけれど、「じゃあ、イブに食事しよう」と約束を取りつけられたので、わるいおじさんは黙っておくことにした。