16. ツリーに願いを

──子どものときにね、サンタクロースを迎える準備をしたんだよ。

 なんて話してくれるミンディ博士は、自分のほうがサンタクロースって感じの髭をたくわえているわりにちょっと幼い印象があってかわいらしかった。博士の家は僕の実家のトレーラーハウスと違ってそれなりに裕福だったらしいから、ちゃんとしたキッチンがあって、ちゃんとしたオーブンがあって。もちろん、ちゃんとしたクッキーを作って、ミルクと手紙を添えてサンタさんにプレゼントをお願いしたらしい。

「天体望遠鏡をね、お願いしたんだ。でも、本物のって書かなかったから、おもちゃの望遠鏡が届いてね。それにがっかりした僕に、親はすごく困っていたなあ」

 いま思えば、彼らが用意してくれたプレゼントだったのに。どうして喜んであげられなかったんだろう。そう思い出を語る彼に「子どもってそんなものですよ」と言ったら、「そういえば、君は最近まで子どもだったものね」と返された。む、そんなことはない。でも、年齢で言えば十八になって成人はしたけれど、博士との差は埋まることがなくて、いつまでも子ども扱いされてばかりのような気がする。

「いまは、いろんな大学の巨大な望遠鏡をおもちゃにしてますけどね、博士」
「はは、違いない」

 いや、すごいんだよ最近の研究でね……と天体の話がとまらなくなったミンディ博士は、きらきらと瞳を輝かせて、まるで彼の目の奥にちいさな宇宙を内包しているみたいに僕を見つめてくるものだから。話なんかひとつも頭に入らなくて、どきどきして、博士の講義を受けている生徒からすれば大変贅沢な時間を過ごしたのだった。

──クッキー、ねえ。

 僕の実家はクッキーどころかツリーも飾れないほど狭くて、クリスマスなんてよその世界の出来事くらい遠い距離感でもって眺めていた。でも、いま博士の家に招かれて、お喋りして、彼の育ちのよさを感じるツリーとかリースの飾りつけを目の端にとらえてみれば、すこしずつ自分にも降り注ぐものみたいに思えてきた。

「ミンディ博士、僕サンタさんへのクッキーって作ったことないんです。一緒に作りませんか?」

 だから、だ。だから、子どものおねだりみたいな願いを口にしてしまった。話をしていた博士は、一瞬きょとんとした表情になって、それからぱっと明るい顔で「いいね」と応えてくれた。そうと決まれば、さっそく材料を買いに行こうか、いまはもう生地になっている物も売っていてね……と行動力を発揮する彼に連れられて、スーパーで小麦粉とかバターなんかを買って(いわく、はじめての君にはちゃんとしたクッキーの作り方を伝授しようとのこと)(嬉しい)、気づいたらもうキッチンでふたり、ちまちまと生地作りをしていた。

「若い子はすごいね。力強いから、いい生地になるよ」

 そう笑う博士は、髭に粉が飛んでたけど気づいてないみたいだった。生地を寝かせる間、リビングでクリスマスの映画を見て、「ほら、こんなふうにミルクとクッキーを添えておくんだよ」と教えてもらって。僕は講義を聞く学生みたいに頷いて、しあわせの光景だなと思った。だから、無事に焼けた生地に下手くそなアイシングをして出来たツリーの型抜きクッキーを見て、ぽろっと泣いてしまった。

「博士、これ、クリスマス休暇で帰省する前にも作りに来ていいですか」

 僕のささやかなお願い。あのトレーラーハウスにもクリスマスの空気を届けたいという気持ちを、ミンディ博士は正しく受け取ってくれて。「もちろん」と抱きしめてくれる彼に、愛おしさを感じてよけい涙がとまらなかったのだった。