03. ココアとマシュマロ、ツリーのはなし

「もっと」
「もっと? 子どもみたい」

 ちいさなマシュマロがみっつ乗った熱いココア。冬のおやつの定番になったそれに、ビリーはもっとマシュマロを乗せろとせがむ。口をちょっと尖らせて言う様子が、甘いものを好む嗜好が、なんだか子どもっぽいなと思ってジェリーは微笑んだ。

 それが気に入らなかったのか、彼はむっとして、「疲れには甘いものがいいって言うだろ」と批判してもいないのに反論してくる。それもむきになった子どもっぽくてかわいいな、と思う。

 彼と付き合うようになって、ジェリーは摂取する糖分が日ごと増えているような気がしてならない。毎日トレーニングしているビリーと違って、ジェリーはそこまで運動量が多いわけではないので、同じだけ食べると体型が崩れてしまうから控えるようにしているのに。いまこの瞬間、空気まで甘い気がして甘味欲とでもいうものが満たされてしまった。

「僕のマシュマロを分けてあげる」

 といっても、一つだけ。疲れに甘いものが効くのは血糖値が上がる一瞬のことだと知っているから、健康のためにも彼のおやつを制限しなくては、と考えてのことだ。けれど、ビリーは満足したようで、よっつになったマシュマロ入りココアをようやく受け取った。

「甘い」
「よっつも入っているからね」
「違う、あんたの愛情が甘い」

 味のこととも性格のこととも重なる言い方。聞いていたら照れてしまうような台詞だというのに、彼は顔色ひとつ変えずココアを飲んでいた。猫舌気味の自分と違って、せっかちな気のあるビリーは熱い飲み物でもぐいぐい口に流し込んでしまう。火傷しないのかな、とか身体にわるいよ、とか思うより、大きく動く喉仏に目が行ってしまった。

──ああ、かっこいいなあ。

 思い切りがよくて、かと思えば繊細で、仕事熱心なあまり変なジンクスまで気にしてしまう、あふれんばかりに魅力的な人。ジェリーにとって、ビリーは生命力そのものだった。もし生き物が持つ生命のパワーが目に見えていたら、ぴかぴかと光り輝いていただろう。

「あ、そういえばツリー、そろそろ飾ろうか」
「なんだ藪から棒に」
「ふふ、ちょっと思い出して」

 まさか、光り輝くという連想からツリーの電飾が出てきたとは言えない。お互い装飾にあまり凝るたちじゃないから、家具の量販店で買ってきた人工樹のものはあるけれど、今年は生木のツリーを飾りたい気分だった。何か、いのちあるものを家に置きたいな、と。ただ、この気持ちをどうやってビリーに伝えればいいのか分からなくて、ジェリーはマグカップを置いてすこし考え込む。

「なんだ、急に大人しくなって」
「うん、今年はさ、ツリー、ちゃんと木のやつ飾りたいなって」

 それこそ、今度は自分が子どもっぽいわがままを言ってしまった気がして気まずい。なのに、ビリーは真面目な顔で「いいな、切ってくるか」なんて言う。「まさか、そこまでしなくていいよ、買ってくれば」と返すのは簡単だったけれど、モミの木を斧で切り倒す彼なんて最高にかっこいいだろうなあ、と思ったら「嬉しい」と口に出していたのだった。