「ごめんな、おれ、あんたのこと裏切った」
心底後悔しているといった弱々しい声。うらぎった。何のことだろう。ロイはダニーの大きな瞳からあふれそうな涙をすくって両手で顔を包み込む。
「何があったのか分からないけれど、君のことならなんだって許すよ」
それはロイの本心だった。ダニーのことが大切で、だからこそ大抵のことは許してしまう。もちろん、自分を大事にしないところのある性分には否を突きつけるが、失敗や間違いは許してこそパートナーというものだろう。しかし。
「おれ、あんたのこと裏切ってリックと寝たんだ」
涙をこぼすダニーの告白に、ロイは凍りついた。とうとうこの日が来たのだ。仕事で何ヶ月も離ればなれになる関係なんて、きっと彼女には耐えられなかったに違いない。いつ愛想をつかされたっておかしくなかった。今日までもったのが奇跡みたいなものだ。
リックはダニーの飲み友達だし、いい人だと聞いている。ほんとうは寂しがりなはずなのに強がる彼女の、いい相手になってくれるだろう。だからロイは「いいんだよ」と言おうとした。なのに口からは「そんなのだめだ」という台詞が飛び出した。
「だ、だめ、ダニー、僕から離れないで……」
「は、そんな、おれの方が悪いのに……ロイ、顔上げて」
ぎゅ、とロイの頭を胸に抱きかかえて、ダニーはその顔じゅうにキスを送った。ごめんな、ロイ。おれ待つって言ったのに。寂しくて寂しくてたまらなくて。ごめんな、言い訳だよな。寂しくて、ついリックのこと抱いちまって。
「抱い……?」
そこで疑問が生まれた。
ふつう、男女の浮気といえば女が男に抱かれる場面を想像する。ロイも不本意ながらリックに抱かれるダニーを想像した。しかし、彼女の話はそうではなかった。リックはクリフという恋人がいるけれど、あんまりやさしい男だからダニーに同情して抱かせてくれたのだと。どういうことなんだろう。彼女の説明はロイには難しかった。しかし、それに続いて「クリフも交えて三人でヤッたことも一度だけある」と言われたらもう理解不能だ。どうして。事態は大いにややこしくなってきた。そして──。
──ど、どうしてこんなことに……。
ダニーにキスされながらリックに愛撫され、クリフにしゃぶられる。ベッドに引きずり込まれたロイは、混乱の極みにいた。三ヶ月ぶりに触れられて敏感になっていた身体は、おかしい状況だというのに快楽を受け入れてしまっている。
ちゅ、ちゅ、と会えなかった間を埋めるようについばむキスを続けるダニー。ぺるぺると猫のように脇腹を舐めるリック。そして、容赦なくじゅぶじゅぶとペニスを舐めながら後ろを慣らすクリフ。「あ、あ、だめ、」こんなのおかしくなってしまう。
「ダニーのこと、ほんとうに悪かったと思ってる、だから」
「リックに手を出されたんだから責任取ってもらわきゃ、な」
「もう、ロイに秘密なんて作りたくないから」
三人の言い分を聞いても、もうロイには何も分からなかった。
責任取ってもらわなきゃ、と言っていたクリフのペニスがロイの後ろにあてがわれている。ああ、彼はリックさんの恋人だから。責任、取らなきゃ……。頭がふわふわして言われたままに脚を開くロイは素直で可愛らしかった。
「大丈夫か?」
と聞くクリフは、しかし待ってはくれない。ずちゅ、と太くて硬いものが体内に埋め込まれ、ロイはちいさくうめき声を上げた。それが嬌声に変わるのは時間の問題だった。何度もしつこく前立腺を突かれて「ひゃん」と鳴き、奥へ奥へとねだる襞はうねって気持ちいい。
「もしかして、彼氏ともペニバン使ってた?」
「ん、片手で数えるくらいかな」
なるほど、とクリフとリックが納得しているのをよそに、ダニーはひたすらロイの額をさすったり口づけを落としたりと甘やかすのに忙しい。肉厚な舌をロイの口内に押し込んで上顎を擦ったり歯列をなぞったり、口への愛撫もかかせない。とろり、よだれが一筋垂れてロイの首筋に伝う。それをリックが舐めて、「俺が優柔不断なばっかりに、ごめんな」と謝罪のキスを喉仏に送る。
リックの顔は、間近で見るとすこしダニーに似ていて混乱する。まるで二人のダニーからキスされてるみたいだ。ゆるゆるとクリフに揺さぶられて快感の波にたゆたいながら、ロイは最初のメスイキをした。勢いのない射精、久しぶりの感覚。ダニーにペニスバンドを使って抱かれるときも、ゆるやかな絶頂でもって果ててしまう。けれど、ダニーと違う、クリフは本物のペニスを持っていて、それはとんでもなく生々しい快感をほどこすのだと知った。
ずる、と後ろから引き抜かれたクリフのペニスはまだ勃起している。
白い精液を垂らし、全然足りないとばかりにぶるんと反り返ってたくましい腹筋に先端がつくようだった。それをダニーの手がそっと包み込む。
「見てろ」
クリフの一言に顔を上げると、ダニーが彼のペニスを頬張っていた。じゅぶっじゅぶっと下品な音を立ててしゃぶる様子はまさに夢中といった感じで、自分だってされたことがあるというのにロイはとんでもなくいやらしいものを見てしまった衝撃で胸がどきどきしてしまった。
けれど、クリフとダニーの二人はそれにとどまらなかった。
ねっとりと舌に先走りをまとわりつかせたまま、ダニーは申し訳無さそうに伏し目のままロイに「見てて」と言う。「大丈夫、挿れんのは後ろだ」とクリフが添えて、ダニーの背後に回る。四つん這いのドギースタイルで、彼女の後ろにペニスを這わせるクリフと目が合う。「まあ、これでおあいこだ」そして、どっと挿入。
ダニーが「きゃん」と鳴いて、思わず腰を引かせるのを、クリフは許さないとばかりに追いかけて抜き差しする。どちゅ、どちゅ、とすごい音をさせて。彼女が苦しそうな、けれど気持ちよさそうな複雑に入り混じった表情をさせるのを見つめて、ロイは何を思ったか──心の痛みと、かすかな興奮だった。
──ああ、ダニー、つらそう、かわいそうに。
──ダニー、痛くないの、気持ちいいの。
──かわいい、ダニー、すごく、きれい。
自分以外の男に抱かれて淫らに尻を振る恋人は美しかった。
気づくとロイのものは兆していた。
「いいなあ、ダニー」
リックがうらやましそうに恍惚として呟く。
ロイもうらやましかった。それがクリフに対してなのか、ダニーに対してなのか、それとも両方に対してなのかは分からなかった。物欲しそうにする二人をよそに、クリフとダニーはフィニッシュを迎えている。音が聞こえそうなほど勢いのいい射精を受け止め、ダニーは尻を上げたままくったりとロイの方に倒れ込んできた。
「ん、ダニー、よくがんばったね……」
今度はロイがダニーの顔じゅうにキスを降らせた。
気持ちよかったね、きれいだったよ、ねえ、でも僕もう我慢できないみたいなんだ。情けないくらい眉を寄せて懇願する。されてばかりだったけれど、次は僕の番だよね、と。
「もちろん、こっちはロイだけのものだぜ」
くぷ、と両脚をはしたなく開いて中心の割れ目に指を差し込む。とろとろのそこは、ふっくらと存在を主張してロイのものと同じく我慢できない様子だった。手早くスキンをつけて、先端を入り口にぴっとりくっつける。ちゅ、とすぐにでも飲み込まれそうなところをぐっとこらえて、ロイは最後に大事な質問をした。
「もう、内緒にしてることはない?」
くちゅ、と離れそうになる先端を追いかけて、ダニーの腰が震える。
まっすぐに自分を見つめるロイの目は、置き去りにされた子どもみたいに寂しそうだった。おれも寂しかったけど、あんたも寂しかったんだよな。ごめんな。もう二度と馬鹿なことしないから。でも、ほんとにたまにだったら、ロイも一緒なら、楽しんでもいいかな。だって、おれたちもう、この快楽から逃げられないよ、きっと。
胸の内に浮かんだ考えは、言葉にならなかった。
けれど、ロイもダニーもとっくに分かっていた。きっとまたしてしまう。自分以外の相手に抱かれる恋人の愛らしいことに気づいてしまったから。だからダニーはこう答えた。
「ない。これからはみんなで共有するんだ」