「ジェイ、くび、首絞めてくれ……」
ウェストリーがこんなこと言い始めたのは、最高に気持ちいいはずのセックスの最中だった。窒息趣味のオンナとちょっとだけ付き合ったことあるけど、やってるときに首絞めると頭に酸素が行かなくなって、酸欠でぼうっとなるのと快感でぼうっとなるのの境目が分からなくなるからいいらしい。そのときはまあ、俺も気持ちよさの恩恵(おもにあそこがよく締まるとかそういうの)にあずかってたから、危なくない範囲で愉しむ程度にはしたことある。
でも、ウェストリーの願望はちょっと違って。
俺が手のひらで首を覆うと「もっと細いの」とねだるのだ。もっと細いの。何だろう、ネクタイとかかなと思って彼のよそいき用のやつを首に巻いてみるんだけど、ウェストリーはまだ足りないって顔して(それは苦しそうでもある)俺にねだり続ける。もっと、もっと細いやつで。って。
けれど、手元にはもうベルトくらいしかないし、それじゃあ革が硬くてやりづらいだろうし、俺は困ってしまう。仕方がないから、モーテルの浴室にあったドライヤーのコードを引っこ抜いてきて使った。シーツに埋もれたウェストリーの首にコードを一周して、力加減を間違えないよう上手いこと両端を引っ張る。
じわじわとコードが首に食い込むと、ウェストリーは「くっ」と息を漏らして悦んだ。これ、これが欲しかった、という嬉しそうな顔。俺は恋人を電源コードに盗られたような気分で行為の続きをする。
彼の片手にコードの端を持たせて、挿入のやり直しから。さっきまでヤッてたおかげで濡れたままのあそこに中指を突っ込んでみたら、きゅ、きゅ、と勝手に締まってた。男でも首絞まるとこっちまで締まるんだなあと思いながら、そこをゆっくりと広げて俺のを挿れる。けど、すごくきつくて動きにくい。
「あ、馬鹿……!」
ふとウェストリーの方を確かめたら、彼は勝手に自分で自分の首を絞めていた。両手でコードを引っ張って、苦しいだろうにギリギリ音がしそうなほど。
「死にたいのかよ!」
慌ててコードを払い落とし、巻かれていたのを剥ぎ取る。
彼は何が起こったのかよく分かっていない様子で、突然奪われてしまった凶器を目で追っていた。ぼんやりとした眼差しだった。唇の端から唾液が伝っていて、それはきっと勝手に気持ちよくなってたときに溢れたものなんだろうと思ったら腹が立ってきて。俺はウェストリーの喉仏に親指を押しあてて、気づいたら彼の首を思い切り体重をかけながら絞めていた。
「なあ、これがいいんだろ」
「誰に教わったんだよ、このビッチ」
「なあ、クソ、締まる……」
ばつんばつん律動しながら締めるのは難しかったし力加減なんかどっかいってたけど、ウェストリーは「やっと求めるものを得られた」って感じの表情で嬉しそうに俺の両手首へ手を添えて、もっともっと、と誘ってきた。
──もし、このままいったら彼を殺すかもしれない。
俺の人生に犯罪は付きものだったけど、それは強盗だとかであって殺人じゃない。俺のしたことで結果的に人が死んだことはあるかもしれないけど、直接手を下したことはまだなかった。
──あーあ、はじめての殺人は痴情のもつれか? もつれって言うか? 刑務所で「恋人殺し」とかあだ名されるんだろうか。
そんなことを考えていたら、ウェストリーの身体がひときわ大きく痙攣していた。びくんびくんと跳ねたと思ったら、ぎゅっと両手首を力いっぱい握られて。ぐりん、と白目を向いたせいで綺麗な瞳が見えなくなって。急に彼の何もかもがゆるんで。力なく両手がするりとほどけたのを危険信号だと気づいて、俺はすぐに首を絞めていた両手を離した。ウェストリー、ごめん、ごめん、あんたを死なせたくなんかないのに……。
結局、あのあと彼は無事に生きてた。
ゆすっても叩いても起きなかったから、テレビの見様見真似で人工呼吸をしたら息を吹き返すように目を覚ました。ほんとうに死んだかと思ってかなり焦った。
「悪い、な」
掠れた声で謝ろうとする彼に、ミネラルウォーターを渡して、どうしてあんたに窒息趣味なんかあるんだろうと聞いてみた。けど、答えは全然要領を得なくて、俺にはどうも難しすぎた。
「なに、窒息なんか趣味じゃないが、なんだろうな。首をこう、細いワイヤーかなんかで締められて、締められて、締められて、ぶつんと死ぬ夢を見るんだ。すごい苦しみだ。じわじわ死んでいく恐怖もある。でもな、ぶつんと死ぬ寸前、ああ、これで終われる、開放されるって思うと、変な多幸感でいっぱいになるんだ。ほんとうに、なんでこんなこと考えちまうんだろうな……」
その話をするウェストリーは、苦笑いと恍惚の間みたいな表情をしていて。ふと目を離した隙にまた首でも絞めはじめるんじゃないかとぎくりとしてしまって。俺は彼の頬をむにゅと引っ張り、「もう二度と誰にもあんなこと頼まないで。もちろん、あんた自身にも」と約束させるためのキスを落とした。