くすぐりっこの敗北

 やけに細っこい腰だな、とミッキーは思った。
 だから右手をラスティの後ろ姿に伸ばした。触ったら骨の感触がするだろうかと想像したのだ。答え合わせのつもりだった。てろてろの、コガネムシの背中みたいな何色なんだかよく分からない生地のシャツに指先が触れた。ふい、と逃げられた。

──なんでだ。
 今度は左手で退路を塞ぐように、シャツとスラックスの中間を狙って手を伸ばした。すすす。てろてろのシャツは趣味の悪い色だが、触り心地はよく、びっくりするほど指の腹が滑った。掴みそこねた腰骨を通り過ぎ、脇腹をいたずらするように手が動いてしまう。

──くすぐりっこだ!
 仲間内でふざけあう感覚で、ミッキーはラスティの脇腹をこしょこしょとくすぐった。ダレンなんかは、二秒ともたず破裂したような笑い声を上げるというのに、眼の前の彼はガッと靴を床にぶつけて、「やめろ」と静かに言ったきりだった。

──全然感じねえのかあ。それとも我慢してるだけか。
 ちょっとした好奇心と対抗心をそそられて、鍛え抜かれた手管を発揮する。こしょこしょ。腰の後ろから助骨へ指をもじゃもじゃさせるみたいに動かす。ラスティはまったく動じない。変だなあ。こしょこしょ。上から下から変な生き物が這うみたいに手を動かす。なんだか自分が虫にでもなって大木に挑んでいるような気分だった。

──声が聞きてえなあ。
 たとえばこれがセックスの相手なら、愛撫の動きでもってそれを叶えることはできるだろう。でも、ラスティは(いまのところ)セックスの相手ではないし、ミッキーはただ彼の吹き出す笑い声や、しょうがないなと眉を寄せる顔を見たいだけなのだ。
 こしょ、と指が脇の下まで伸びたとき、ラスティの気配が変わった。怒ったかもしれない。悪ふざけが過ぎたのだ。ミッキーはラスティとくすぐりっこはしたかったが、喧嘩はしたくなかったので、大人しくそろそろと手を引っ込めた。謝ったほうがいいのだろうか。らしくもなくしおらしい気持ちになったところで、眩しい金髪の彼が振り向いた。

「……くすぐられるの、得意じゃないんだ。やめてくれて助かった」
 その顔は、ミッキーが想像していたどれとも違った。眉を下げて困ったような、照れたような表情で耳まで顔を赤くしたラスティは、なんだかどきっとするようないじらしさがあった。

──ああ、やばいな。
 好きな子にいじわるするんじゃないよ、とマーは言っていたけれど、この顔をもう一回見られるなら、忘れたフリでもしてまたくすぐってしまいそうだった。