LET ME’ CRAZY!!

 ポルノ映画館の裏をちょっと歩いた先に、その店はあった。
 表にはネオンも看板もなし。建物同士の間にひっそりと存在する地下の店。薄暗い階段を下りていくと、まずショッキングな写真の数々が目に飛び込んできた。隙間なくタトゥーを入れた肌のアップ、蛇のように先が二股になっている舌、角のようなインプラントが埋め込まれた額。それに、ボディピアスをつけた男の上半身と下半身。性器まで丸出しのやつだ。リックは壁に貼られた写真を見てすこし怖気づいたようだったが、クリフは面白そうに口角を上げてそれらを眺めている。

「で、どうする。やっぱりやめるか?」
「まさか。おれの決心は変わらない。やる」

 クリフが店の扉を開けると、むわっと香の匂いが鼻をついた。安っぽい人工的なローズのスメル。せまい店内はほどほどに明るく、商品の並んだガラスケースの中までちゃんと伺えた。首輪、口枷、貞操帯などの拘束具。一本鞭からバラ鞭、乗馬鞭まである。さらに並ぶのは、男性器を模したディルドの群れ。一般的なサイズから、子どもの腕ほどありそうなサイズまでよりどりみどりだ。これはビビったか、とリックの様子を伺うと、彼は戸惑いを隠せないといった表情で凍りついていた。

 スタントマンになる前、短い期間だったが、風俗店の裏方や用心棒をして日銭を稼いだことのあるクリフには懐かしい光景だ。全身黒のボンデージを着た女に「道具が違う!」と怒鳴られて種類を覚えたっけ。ストリップクラブのスカウトを受けて、ちょいと脱いだり触られたりしたこともあったな。そんなことをクリフが思い出していると、店の奥から全身タトゥーだらけの若い男が出てきて、何が入用かと尋ねてきた。はっとしたリックが「ピアス、その、胸につけるやつ」と応える。そう、今夜ここへ来た目的はピアスだった。

 六〇年代に入って耳に穴を開けるファッションは人気になっていたが、そのほかの部位に穴を開けるのは、まだ一般的でない雰囲気があった。ただ耳に穴を開けるだけなら、そのへんの針でも何でも使って開ければいいが、リックが望んでいるのは胸、つまり乳首につけるピアスだったので、そうはいかない。だから、わざわざアンダーグラウンドな店に足を運んだというわけだ。ちなみに、この場所はクリフが調べた。むかしとった杵柄というやつで、ストリップ時代に世話になった人物からボディピアスをやっている店を教えてもらった。まあまあ信用出来る相手だったので、この店も信用に足りると思い、リックを連れてやって来たのだ。

「胸ならニップルピアスだな。リング? バーベル?」
「ええと、バーベル。それで、その、出来れば、自分で開けたいんだが」

 リックが言いづらそうに話すと、男は「ふむ」と考え込んだ。それもそうだ。ディルドにビビっているような奴が、乳首なんて場所にちゃんと穴を開けられるのか。知識やカンも必要だが、何より度胸がなければ上手く出来ない仕事だ。男がリックの身体を眺めて「あんたの胸ならやりやすそうだが、自分でやるのは大変だぜ」と言う。あわてて「おれじゃない! あ、あいつにしてやりたいんだ……」とクリフを差してリックが訂正する。「はン、なるほどね。プレイ込みってやつか」にやにやと顎を擦りながら「ちょうどボディピアスやるって奴が来てるんだ。そいつを見学して勉強するかい」と男が提案してきたので、リックは頷き、クリフと一緒に店の奥へと進んだ。

 奥には簡素な寝台がひとつと椅子が二脚、様々な用途の器具が並んだ作業台、それにきわどい写真の数々があった。例のボディピアスをやるという奴は男で、寝台に座って待っていた。「見学者がいてもいいか」と聞かれると、二つ返事で応えた。「うちの常連。最初は顔だけだったんだが、身体にも入れたいんだとさ」と店の男が言って準備を始める。「穴に通す軸の太さはゲージってンで、数字が小さいほど太くなる。今回は十四ゲージのを開ける」と言ってニードルを取り出し説明するのを、リックは真剣に聞いていた。身振り手振りを交えて知識を教わり、実際の手順を見て確かめる。その顔は真面目そのものだったが、息を呑んだり緩めたりと忙しない。クリフは壁に寄り掛かってそれを眺め、煙草を吸いながら時間を潰した。

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「じゃあ、必要な道具は揃ってるから」
「ありがとう、ほんとうに助かった」

 リックが支払いをすませ、クリフは紙袋を受取る。そのとき「あんたの連れ、顔に似合わずいい趣味してるね」と耳打ちされたので、「だろ。自慢のボスだ」と目配せしておいた。この店には今後も世話になるかもしれない。愛想よく振る舞うクリフの腕をリックが掴んで、ふたりは店を出た。

 外はすっかり夜も更けて、あちこちでネオンが輝いていた。
 帰路に着く車内は静かだった。リックがラジオを消して黙り込んでいるので、クリフも喋らない。しばらく無言のまま車を走らせる。と、赤信号で停車してから、リックが口を開いた。「クリフ……」こちらを向いたその顔が、ベッドのなかでの表情にそっくりだったので、クリフは舌打ちしてからリックにサングラスを掛けさせた。「その顔、誰にも見せるな」信号が青に変わった瞬間、アクセルを勢いよく踏み込む。いつもの安全運転はなしだ。早く帰って、こいつを隠さなければ。それだけを考えて、スピードを出し、車を追い抜いていった。

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 グリーンドアを閉めた瞬間、リックがクリフをドアに押しつけて口づけた。厚い下唇を甘く噛んで引っ張る。ぱっと離され、自由になった唇はすこし赤くなっていた。青い瞳が潤んで欲情していた。なおも口づけようとするリックを止めて「イージー、ボス。寝室へ行くか?」と尋ねる。リックは「クソ、違う、焦りすぎた。お前はシャワー浴びてこい。準備、するから」とクリフの持っていた紙袋を引ったくって寝室へ向かった。扉のなかへ姿を消したのを見届けてから、クリフは下唇を中指の腹でなぞり笑った。「危なかったな」まだ餌の時間ではない。これから、もっといいご馳走が待っているのだから。

 この前のパーティでちょっとした趣向を見せられてから、リックはピアスというものにご執心だ。「あっちの部屋で面白いことをやっている」と誘われて行った先では、ボンデージ姿の女が四つん這いの男を引き連れ回していた。スーツやドレスの連中が酒を飲みながらそれを眺める光景は異常だったと思う。だが、まあ昔もこんなのを見た。薄暗い専用の部屋でだが。クリフはちょっと目を細めて、手持ちのブラッディ・マリーを舐めるように飲んだ。趣味が悪いな。こんなに明るいところで見ていると、まるで見世物のようだ。だが、リックは違った。演技に対する姿勢を見れば分かるが、もとが真面目な性格だし、性的嗜好もノーマルな男だ。それなのに、目の前の光景に惹かれている様子だった。唇を舐め、ちいさく喉を鳴らす。「お気に召したのか、ボス」とからかうつもりで声を掛けたが、リックは目を離さずに「あれ、いいな」とだけ呟いた。その視線の先には、男の胸でシルバーのニップルピアスが輝いていた。

「お前にあれ、つけたい」

 耳元で吐息を吐くように囁かれて、どうして否と言えよう。今度は、クリフが唇を舐めて喉を鳴らした。ボスの手ずから身体に穴を開けられる。そのうえ所有の証みたいに装飾される。なかなかいい考えだった。だから、リックの耳に甘く低音で囁いた。「あんたがシてくれるなら」と。「もちろん、そのつもりだった」「そうか、気が合うなダーリン」そうして、リックはボディピアスのことを調べ始め、クリフは店を探すことになった。

 シャワーを浴びながら、それを思い出し、クリフは苦笑する。確かに、ボスは顔に似合わずいい趣味をしている。自分の耳にすらピアスを開けたことのない奴がいきなりニップル? それも自分のオトコにつけてやりたくて? これが興奮せずにいられるか? もうだいぶ反応し始めている自分のブツに指を這わせる。クソ、想像しただけでこの有様だ。カランを捻って冷水を浴びたが、興奮は収まらなかったので、クリフはそれを扱いて一度欲を吐き出した。はやいとこ出ないと、ボスが待っている。髪を拭くのもおざなりに、裸のままリックの待つ寝室へと急いだ。

「ちょうど準備出来た。はやく来いよ」

 いつもの丈の短い部屋着に着替えたリックは、手をアルコールで拭きながら、ベッドの上に道具を広げて待っていた。まるで、お気に入りの番組を一緒に見るときのように気軽に誘われる。クリフがベッドに乗り上げると、犬にするみたいに髪を両手でわしわしと梳かれる。「お前、またちゃんと拭かないで」「あんたを待たしちゃ悪いと思ってね」「そのわりに、マスかく時間はあったわけだ」お見通しだぞ、という顔で髪を引っ張られる。おれはこんなに我慢してるのに、と手を股ぐらに持って行かれる。そこはすでに反応しきっていて、ほんのすこし先走りで湿っていた。

「駄犬に餌はやれねえなあ」
「勘弁してくれよ、ボス。これからいい子にするから」

 きゅうん、と上目遣いに言われると、リックは弱かった。「クソ、お前のそれ、ずるい」とぶつぶつ言う唇を舐められて「ワン」と鳴かれれば、もう駄目だった。クリフをベッドのヘッドボードに押しつけて、鋭い眼光で射抜く。ジェイクの目だ。「覚悟しとけよ、ダーリン」「分かってるさ、ダーリン」額をくっつけて挑発し合う。吐息が熱く肌に触れた。

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「ん、あッ、ボス……!」

 尖ったニードルの先端がクリフの肉に埋まる。乳首にあてがったコルクに先端が辿り着いたので、貫通したことが分かる。勃起した乳首の根本に刺さる銀色。刺したときに血が出ないよう、ニードルの空洞には軟膏を詰めていたので、白いそれと、ほんのりついた血の色が混じり合っている。若い女のつける口紅みたいなピンク。「痛いか?」と聞くと「おっ勃つほどイイよ」と返ってきた。強がりめ、と思いながら、リックはもう一本ニードルを手にした。「動くなよ」と言って、もう片方の乳首も同じようにコルクをあてがう。水平にしたニードルの先端が、また肉に埋まる。ぷつ、と皮膚を破ったらあとは押し込むだけだ。ぐっと力を入れて、硬い肉を押し進めていく。「くう」とちいさく呻く声。クリフはシーツを握りしめて痛みに耐えていた。

「脚ぶっ刺されても平気だった男が情けねえなあ」
「は、あんたに刺されて興奮してるんだよ」

 両方とも貫通したので、ニードルの先端に切ったコルクを刺して肌を傷つけないようにする。十分ほど時間を置けば、ファーストピアスを入れるのが楽になるので待つ。その間、クリフは甘くじんわりと広がる痛みを味わっていた。銃弾やらナイフやらがこの身を貫いたことはあるが、そのときの痛みとはまったく違う。ボスがその手で開けてくれた穴だ。知らず息が浅くなる。股間のものは腹につくほど勃ち上がっていた。

 待つ時間がもどかしい。はやくしてくれ、と目で訴えるが、リックは首を振った。「ひとりでシコった罰だ」と言って、意地悪く笑う。それどころか、ストリップするようにゆっくりと脱いだショートパンツを投げて寄越すと、「お前でオナるから見てろよ」と性器に指を這わせ、先走りを塗り広げるように扱き始めた。あ、あ、とこれみよがしに喘いで大胆に脚を広げて見せる。クリフは口内に溢れる唾液を飲み込んだ。待ての出来ない犬が、舌を出してよだれを垂らしているような表情で、餌に飛びつきたいのを我慢する。こんなの拷問だ。思わず自分のものに手を伸ばそうとしたら、足で止められた。「ステイ」と鋭い声を掛けられ、身体が動かなくなる。我慢は苦手だが、躾は行き届いているのだ。

 クリフが喉の奥で唸っているのを楽しそうに眺めながら、リックは扱く手を速めた。ぐちゅぐちゅと水音が響いて息が荒くなる。人でも殺しそうな目つき。熱い視線にぞくぞくと背筋が震える。たまらない。下腹の奥がきゅうと鳴いて、先端をくじっただけで吐精してしまった。はあはあと息を整え、精液にまみれた手をクリフの顔の前に掲げる。「おやつだ」と言うや否や、長い舌に指の股までべろりと舐め上げられる。ふんふんと鼻息荒く指を咥える姿が愛おしくて、上顎を指の腹でくすぐってやると、口の端から唾液が溢れた。

 一通り指を舐め回されてから、リックはまた手指をアルコールで消毒する。いよいよファーストピアスの装着だ。クリフの乳首を貫くニードルの後端を肌のぎりぎりまで押し込めてファーストピアスをあてがう。ボールタイプのキャッチがついた、白く輝くプラチナのストレートバーベル、十四ゲージ。キャッチを外し、それをニードルの代わりに肉へ埋めていく。ぐぐ、と押し進めていくと、軟膏のおかげか滑らかにシャフトが通っていった。痛みに慣れたのか、クリフは吐息も漏らさず、じっとリックの手つきを見ている。乳首の反対側まで貫通したら、ネジ式のキャッチを留める。が、指が滑って上手くいかない。眉間にしわを寄せるリックを制して、クリフは自分でキャッチを留めた。

「お前って器用だよな」
「こっちはボスが留めてくれよ」

 もう片方の乳首も同じようにファーストピアスを通し、今度は指を拭いてからキャッチを留めに掛かる。ちいさなボールは回しにくかった。リックのまるっこい指先が胸元でくるくると動いているのがくすぐったくて、クリフはちょっと笑ってしまった。「こら、動くなって」「悪い、あんたの手つきが可愛くって」「あ、待て。よし、出来た」無事に両方の乳首にピアスが収まった。リックは、すこし後ろにずり下がって全体を眺める。マーキングなしの直感でやったが、綺麗な平行になっている。乳首の両端から覗く白金が、柔らかな輝きを放っていた。

「やっぱりプラチナにしてよかった」

 うっとりと目を細めながら、クリフの胸に指を伸ばしてリックが言う。「最初はシルバーでもいいかなって思ったけど、店で見たら何かぎらぎらしてて違うなって。お前の肌はこういう、重みのある落ち着いた色の方が似合う」リックがほうっとため息を吐いた。出来に満足したらしい。その指が検分するように乳首の周りを弄る。爪がキャッチを弾いてぴん、とわずかな痛みが走った。もう我慢出来ない。クリフは、遊ぶリックの手首を掴んで引き寄せた。ここまで待ったんだ、もういいだろう。「ご褒美くれよ、ダーリン」と指を甘噛みすると「仕方ない奴だな、ダーリン」と言って、リックはクリフの鼻に口づけた。

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「あッ、だめ、激しッ……!」

 顔を枕に押しつけて腰を上げるように四つん這いになったリックに、クリフの身体が覆い被さっていた。まろい尻をわし掴み、がつがつと激しく腰を動かして犯す。正常位で一度イっても収まらず、リックをひっくり返して再度挿入した。犬のようなファックをしたかった。尻に恥骨をぶつけるようにして奥へ進み、どんどん肉を押し開いていく。きゅうきゅうと締まる直腸の襞を抜けて、さらに奥へと進むと、とつり、何かにあたる。「ひッ」とリックが息を呑んだ。にやにやしながら「子宮口下りてんぞ」と言うと、リックの足がクリフの太腿を蹴って「し、きゅうとか言うなクソ、」と息を切らせて怒った。

 たまんねえよ、あんた。クリフが唇を舐めてリックの背に口づけを落とす。それすら感じてしまうのか、ふるりと肩が震えた。クリフは膝をすこし進め、リックの下腹を撫でた。「ここまで入ってる」とへその辺りを押す。「ふうッ」とリックがつらそうに息を吐いた。「まだ入るよなあ」クリフの指が自分のブツを確かめるように下腹を揉み込む。何かが漏れてしまいそうで、リックはくっと腹に力を込めたが、なかのものをよけいに感じるだけだった。クリフが指を離し、腰を掴む。「やめ、おく、やだ」と言う言葉を聞き流して、ぐりぐり亀頭をねじ込むと、ぐぽっと音を立てて結腸口に入った。リックが声にならない悲鳴を上げ、上手く呼吸が出来ないかのように、口をはくはくと動かしてよだれを垂らしている。

「リック、息しろ。死んじまうぞ」

 分かってるけど出来ない、とでも言いたげに涙を流すリックの唇に、クリフが中指と薬指をあてた。「噛め」と言われて思い切り噛みつく。息が漏れて、すこし呼吸が楽になった。「悪い、まだ奥は早かったな」クリフが腰を引いて、結腸口から亀頭を抜く。その感覚にまた涙が流れた。そのまま収めていたものをぜんぶ引き抜き、クリフはリックの身体を転がして顔中に口づけを落とす。「ごめんな、でも、もっかい入れたい」あのきゅうんとした顔をされてリックは唸ったが、「奥はなし。ここまで」と下腹を撫でられてはたまらない。まだ足りないのはお互い様だった。「来いよ」と言って左脚をクリフの肩に掛けると、嬉しそうに膝に口づけられた。

 とろとろにほどけた後ろに硬いものがあてられる。ぐっと押し込むと、さっきまでクリフのものを飲み込んでいたから簡単に入っていった。なかにぴったりと収まったところで、気持ちいいところをゆるゆると擦り上げる。「あン、それ、いい」控えめな声を上げて感じ入る顔が愛おしい。肌をぶつけ合うような激しいのもいいが、こういう緩やかな動きの方がたっぷりとリックを味わえる。じゅぷじゅぷ抜き差ししていると、どんどん表情が蕩けていく。「あ、あ、いく」喉を晒してしがみつく手が、クリフの胸についたピアスを引っ掻いた。なかがきゅううと締まって、びくびく痙攣する脚が空を蹴る。吐精せずにイったのは分かったが、クリフもイきたかったので腰を細かく揺すって射精する。じわりと広がる熱を感じて、リックは甘くため息を吐いた。

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「血、出てる」
「あ? 大したことねえよ」

 隣に寝転がったクリフの胸を触って、リックが申し訳なさそうな顔をする。無我夢中だったから、ピアスがついていることを忘れていた。開けたばかりのうちに動かしたせいか、わずかに血がにじんでいる。クリフは気にしていないようだが、リックにとっては一大事だ。ピアスホールが安定するまで、スタントのときなんかは医療用テープで保護しなければならないし、そうでないときでも負担はよくないから、ぴったりした服は着るなと言ってある。身体に穴を開けたのだから、治るまで弄るのは禁物だ。なのに、もう傷つけてしまった。

 おれの身体なんて、もとから傷だらけなんだから。と髪を梳いてくる手をどかして、リックはクリフの乳首からにじむ血をそっと舐めた。てろり、肌とピアスをいたわるように。そうして「軟膏の味がする」なんて笑う。眩しいな、とクリフは目を細めて笑い返した。

「なあ、今度はおれに開けてくれよ」

 脱ぐ役が回ってきたらどうするんだ、とクリフは仕事を理由にあげたが、本心ではボスの身体に傷がついたら嫌だな、と思ったので阻止するつもりでいた。それなのに、リックはシーツをめくって脚を開き、股ぐらに指を這わし「ここなら誰にも見られない」と言って性器の根本を撫でて誘ってくる。思わず喉が鳴った。「ここに、クリフとお揃いのバーベル入れたい」陶然と微笑む姿はまるで、見る者を魔力で惑わすニンフのようだった。

 またあの店行こうな、今度はお前が選んで。と囁く声にどうして逆らえよう。
 クリフは、リックの性器にニードルを刺す感触を想像する。きっと痛がるだろう。途中でやめろと喚かれるかもしれない。だが、おれはぜったいにやり通すだろう。何故なら、リックがクリフに所有の証をつけたがったように、クリフもリックを縛りつける何かが欲しいからだ。指輪をつけられないふたりの身体に、揃いのプラチナが重たく輝く。  その日が待ち遠しくて、たまらなかった。