子犬にしてあげる vol.1

ヨガのインストラクターと付き合っている。というと、二言目には「アレの締りがめちゃくちゃいいだろ?」と、暗にセックスのことをからかわれる。たぶんプッシーのことを言ってるんだと思うんだけど、おれは自分の恋人が男であることを隠さないので、相手はちょっと驚いてから「やっぱり、後ろもめちゃくちゃよかったりすんの?」とか聞かれる。

「めちゃくちゃっていうか、超・天国」

馬鹿みたいな感想だけど、おれはレオの中に入ってるときのことを思い出してにやけてしまう。レオはすごい。ヨガやってるってだけあって、身体が柔らかくて、どんな体位でも出来る。いっぺん、日本の四十八手? ってやつを攻略してやろうとググってひとつずつ試したことがあるんだけど、レオは縦にも横にも脚が大きく開くから、びっくりするくらい奥まで入ってビビった。二人してシフトが休みのときに、朝から晩までセックス、セックス、セックス。レオの後ろに入れながらドギースタイルでスポーツドリンクを飲んだり、向かい合って対面座位のままプロテインバーをかじりあったりして、息も絶え絶えになりながら、途中からは意地でも完遂してやる! ってむきになって続けたっけ。

レオは受け身で負担が大きいはずなのに、負けず嫌いだから一晩中かかってでも全部の体位を試した。次の日のシフトには二人揃って遅刻したけれど、おれたちはものすごく大きな達成感に満ちていた。まるで激しい戦場をくぐり抜けた戦友みたいな気持ちになって、ますますレオとの絆を感じた。でも、他人にそこまでおれたちのことを話す気はなかったから、おれはにぱっと笑って(レオは馬鹿っぽいっていう笑い方だけど自分の顔っていまいち分かんなくない?)のろけ話を終わりにする。

早番で、ジムのオープンする三十分前に裏口で鍵を探していると、同じ早番のレオがやって来て「おはよう」と声を掛けてくれる。それから、「また鍵失くしたのかよ」とか「いつも入れる場所決めとけよな」とか言いながら一緒に鍵を探してくれる。だいたいどこかのポケットに入れたはずなので、レオも分かってておれのジーンズの尻ポケットとかに触ってくるんだけど、遠慮もなくズボッと手を入れてくるから気が気じゃない。

「セクハラすんなよー、勃つだろ」
「バカ、何変な気起こしてんだよ。あったぞ。早く開けろよ」

これが一日の始まり。
おれの勤めてるスポーツジムは、去年増築して新しくヨガスタジオが出来た。レオはそこのインストラクターで、ジム所属の社員と違って派遣されて来てるから、レッスンのある日しか来ない。ほかにも掛け持ちで別のジムに行くこともあれば、個人指導なんかもしてるって言ってた。レオがエロいオヤジに手取り足取りレッスンしてるところを想像して、アダルトビデオみたいに襲われないか心配だって言ったら、「ほとんどバリキャリのおねーさんだし、おれの顧客はそういうの、ちゃんと弁えてる人ばっかりだから変な想像すんな」とほっぺたをつねられた。安心した。

でも、ヨガを教えてるレオはエロい。タンクトップからチラチラ見える鎖骨とか、腕を伸ばしたときに見える脇とか(ちなみに、レオは見苦しくないようにって脇毛をワックス脱毛してるから余計エロい)、ショートパンツの下にレギンス履いてるせいで丸わかりの脚線美とか。うちのヨガスタジオに通ってるのは女の方が多いんだけど、女性専用じゃないから、ちらほら男もいる。他にもインストラクターはいるんだけど、レオ目当てでレッスン予約してるって奴もいるらしい。もちろん、みんながみんなエロい目で見てるわけじゃないって分かってはいるけど、レオのレッスンが始まる時間になるとソワソワして落ち着かなくなるから、しょっちゅうリンダにどつかれる。レオにも後で怒られるから、おれはなるべく気にしないようにして自分の仕事をこなす。明日は遅番だから、今夜はレオのアパートに行こう。とか考えながらだけど。

だいぶ遅めのランチ休憩で裏に回ったら、今日のレッスンが全部終わったらしいレオと鉢合わせた。もうシャワーを浴びて着替えた後のレオは、金の混じったブラウンヘアーがまだしっとりしていて、前髪の下りた髪型は彼をすごく幼く見せている。

「なあ、今夜そっち行っていい?」
「デリ買ってきてくれるならいいよ。エビアボカドのやつとベビーリーフいっぱいのやつ以外はまかせる。じゃ、おれ先に上がるから」

レオはおれの恋人のはずなんだけど、職場だと一貫してサバサバした態度をとる。別に周りに隠してるわけじゃないのに、どうしてもっとこう、優しくしてくれないんだよ。と前に聞いたことがあるけど、「お前が使い物にならなくなるから」と言われて、心当たりがあり過ぎたから納得した。それからは、この態度にも慣れて、むしろ二人きりになったときとのギャップが楽しみでしょうがない。

マウンテンバイクのグリップにデリの袋を引っ掛けて、いつもよりバランスの悪い格好でレオのアパートまで走る。ホントはシャワーを浴びて制服のシャツから着替えたかったけど、一秒でも早くレオに会いたくて汗臭いままサドルに飛び乗った。背負ったリュックに着替えが入っているから、レオの部屋でシャワーを借りよう。もしかしたら、バスルームでするかもしれない。なんて妄想しながら走ったら、こけそうになった。

アパートの三階にある角部屋。くすんだグリーンの色をした扉を合鍵で開けると、中からリラックスタイムによくレオが流してる曲が掛かっているのが聴こえてくる。暗めに落とした明かりのリビングで、彼はゆったりと身体を動かしてヨガの世界に没頭しているみたいだった。立ったまま屈伸するようなポーズから、流れるように起き上がって腕を上げる。そうかと思えば下げて、また屈伸のポーズに戻る。くにゃんくにゃんと次々にポーズを決めるレオの姿は、心臓が速まるくらいセクシーでたまらない。デリの袋をキッチンに置いたおれは、そうっとレオの背後に近づいて、彼がまた上半身を起こしたタイミングで抱きついた。「うわッ」と驚く声。でも、おれだって分かったら、レオは固くしていた身体から力を抜いて、腹に巻き付く腕をさすった。

「チャド、離れて。汗臭い」
「早く会いたかったんだよ。なあ一緒にシャワー浴びよう」

やんわりと腕をほどこうとするのに逆らって、もっとぴったりとくっつく。レオの首筋に頭をこすりつけて耳の後ろを嗅いだら、シトラスっぽいヴェレダのボディオイルの匂いがした。おれの好きな匂い。そのまま耳をぱくりと食べて、ちょっと舌で触る。腕の中でレオが身じろいだ。ゆったりとした襟ぐりの大きな部屋着からエロく覗いた鎖骨を触って、勃ちかけのチンコをキュッと上がったケツに擦り付けたら、レオはぶるっと身を震わせてエロいため息を吐いた。あとちょっと押せば、たぶん流されてくれると思うんだけど、ワークアウトとバイクでかいた汗が冷えて、シャツが肌にべったりと張り付いてきたので、やっぱりシャワーを浴びたくなって、おれはレオを抱きしめたままえっちらおっちら足を動かしながらバスルームへ向かった。

お互いに服を脱がせあって、浴槽の中に飛び込んだら、レオお気に入りのシャワージェル(なんか高級な花みたいな匂いのするやつ)を、これまたレオお気に入りのスポンジ(イタリア製の海綿で出来てるやつ。めちゃくちゃもこもこの泡が出来るからおれも気に入ってる)で泡立てて、二人して泡だらけになりながらお互いの身体を洗う。ときどきレオのまあるい指先が、おれの腹筋の線をつーっとなぞって悪戯するみたいにくすぐってくるから、ぞわぞわして勃ちかけのチンコがよけい固くなる。腹に付きそうなくらい勃起したやつを見て、レオは猫みたいに目を細めて「えっち」とちいさく笑った。そのエロい顔がたまんなかったから、レオのケツを揉んで、シャワージェルを足した指を中に入れて仕返しする。

ちゅこちゅこ中指を動かしてまんべんなく中を洗っていたら、そこは足りないってねだるみたいにおれの指をしゃぶってきて。気づいたら中指と薬指まで突っ込んで洗ってた。もうこれ入れてもいいよな? って思ってチンコをあてがおうとしたら、突然頭の上からお湯が降ってきて、レオがシャワーのカランを捻ったんだって分かった。もこもこの泡がさーっと溶けて足元に滑り落ちていく。ついそれを目で追っていたら、ケツに突っ込まれた指をどかして、レオがおれの腕からするりと抜け出した。そうして、シャワーヘッドを持って全身と中の泡を落としたレオは、さっきの猫みたいなエロい顔で「続きはベッドな」って囁いて、バスルームから去っていった。チンコのやり場を失くしたおれは、ほんのちょっとの間、馬鹿みたいに突っ立ってたけど、すぐ我に返ってカランを捻り、急いでバスルームを飛び出した。つま先にまだ泡がひっついてた。

「何だ、遅かったじゃん」

シーツをまとってダブルベッドのヘッドボードにもたれ掛かるレオは、なんか美術館とかに飾ってありそうな裸の絵みたいにきれいで、いつもどきっとする。対するおれは間抜けな素っ裸でベッドに上がるんだけど、前にレオが「ミケランジェロの彫刻みたいだ」って言ってくれた顔と筋肉があるから、もし、レオが美術館に飾られることになっても、たぶん一緒に飾ってもらえると思う。え? 意味分かんないって? おれも分かんない。美術に明るかったらもっと上手い例えでレオの美しさを表現出来ると思うけど、おれは美術の成績悪かったし、アートの才能もないから、とにかくレオがエロくてきれいだなってことしか分かんない。

だから、おれはとにかく邪魔なシーツを剥ぎ取って、レオのすらっとした脚をぱかって開いて、エロくてきれいな場所にチンコを擦りつけるだけの犬になる。「濡れたゴールデンレトリバーみたい」ってレオが笑って、がっつくおれの髪を撫でてくれた。その手がやさしくて嬉しくて、おれはほんとの犬みたいに目の前の身体をしゃぶりだす。薄い下唇をべろんと舐めて、顔中にキスして、くすぐったがるレオの首筋にもキスして。ぷっくり膨らんだ乳首も、おっぱい飲みするみたいにちゅうちゅう吸ったりやわく噛んだりしてたくさん味わう。レオはヨガで整えた身体をマッサージするのにボディオイルを使うから、肌が滑らかで触り心地がいい。

前は、セックスってスポーツみたいな感覚でいたから、こういう愛撫はあんまりしなかったんだけど、レオと付き合うようになってから、すべすべの肌を触るのが気持ちよくて。ただ突っ込んで汗かくだけじゃもったいないなって思うようになった。でも、あんまり堪え性がないから、身体じゅう舐め回されてびくんと感じてるレオを見てると、すぐ入れたくなる。

「なあ、レオいい? もう入れていい?」

上目遣いにお伺いを立てるおれは、みじめなくらい欲に浮かされた顔してるんだと思う。セックスするときの支配権はたいていレオにあるんだけど、それは、レオの言うことを聞いていればめちゃくちゃ気持ちよくなれるって知ってるから。だから、おれはレオが「いい」って言うまで我慢する。レオは、かわいそうなほど勃起したおれのチンコを見てちろりと舌舐めずりすると、枕元に置いてあったローションを開けて、自分の股ぐらに垂らした。まだ緩くしか勃ってないレオのかわいいチンコを伝って、粘つく液体がシーツを濡らす。

「慣らして」って言われたから、それをすくい取ってレオの中に指を入れる。さっきバスルームですこし慣らしてたから、ローションの滑りを借りたそこは、あっという間におれの指を三本飲み込んだ。あつくてきゅうきゅう締まって、もっともっとって誘ってるみたいだった。うう、入りたい! 入りたい! 入りたい! でも、おれのチンコはでかいってよく言われるし、レオが傷つくのはいやだから、職人になったつもりで丁寧に慣らす。ついでに指の腹でレオの中のふっくりしたところを押すと、気持ちいいのかちいさく喘いでレオのチンコも勃起してきた。

「チャド……」

レオがとろけた声でおれの名前を呼ぶ。シーツをぎゅっと握りしめた手が震えてて、普段は白い肌が血色良くピンクに染まってる。レオの左手が、穴に突っ込んだままのおれの指に触って、くるりと合図する。許しを得たおれは、中から指を引き抜いて、両手の親指でくぱーって穴を広げたら、あとはもう、本能のまま動いてた──。

「あッや、激しッ!」ってレオが悲鳴を上げてる。
ぐっとチンコの先を押し込んで収めたら、あとは面白いくらい簡単に入った。やっとレオの中に入れた! って嬉しさに全身がブルって、もう我慢しなくていいんだと思ったら馬鹿みたいにがつがつピストンしまくってた。途切れとぎれ「やだ」とか「もっとゆっくり」とかいう声が聞こえてたはずなのに、おれは全然止まれなくて。白い脚を抱えて、恥骨がぶつかるくらい激しく動きながら「レオごめん」って思ってた。ずっちゅずっちゅ音を立てて味わうレオの中は、急な摩擦に付いてこれない襞がきつく絡みついてきて、チンコがとろけそうに気持ちよかった。

しばらく好き勝手動いてたら、レオもだんだん気持ちよくなってきたのか、おれの首に腕を回してあんあん鳴くようになった。普段の声よりちょっと高めのそれが、犬笛みたいにおれをコントロールしようとするんだけど、もう遅くて、気がついたらおれはレオの中に精液をぶち撒けてた。

全力疾走した後みたいに、はあはあ息を切らせながら冷静になったおれは、そういえばスキンをつけ忘れていたことを思い出してやばいと焦った。「れおっ、悪い! すぐきれいにするから!」生でするとつらいのはレオだ。なのに、慌ててベッドから降りようとするおれの手は引き止めるようにぎゅっと掴まれた。「まだ、おれ、いってない……」怒ったように涙を湛えた青い瞳と目が合う。しくじったんだ! って気づいたけど、もう遅い。レオは悪い顔しておれを押し倒すと、反撃開始とばかりに、あの猫みたいな目をした。

「あ〜〜ッ♡ あッ♡♡ れお、イかせてぇ♡♡♡」

おれの上に跨ったレオは、まず射精して萎えたチンコにローションをぶっかけてちゅこちゅこ扱きまくった。現金なおれのチンコはすぐに勃起して、はやく出したいってひくついてたのに、レオはそれを許さなかった。激しく動かしていた手をいいところで止めて、つーっと指で裏筋をなぞり、ふうっと息を吹きかける。亀頭を親指でくりくり弄ってみたり、先っぽを舌でちょっと突いてみたり。明らかにあてつけて遊んでる。レオのきれいな顔がおれのグロいチンコの隣に並ぶ光景は、めちゃくちゃいやらしい感じでそそるんだけど、いまはめちゃくちゃつらかった。射精するには足りない刺激を与えられ続けて、かと思えばやっと開放してくれるのかというくらい強く刺激されて、なのに、またおあずけされて。

レオの手が離れそうになるとつい腰を上げて追いかけるんだけど、「めっ」ってされてお仕置きにチンコの先っぽをぐちゅぐちゅに弄ばれる。そうすると、びっくりするくらい大量の先走りが出てきて、尿道がくぱっくぱって開いてるのが分かった。タマもせり上がってきてはやく精子出したい! って暴れてるのに、あとすこしのところでレオは動きを止めてしまう。

「あ〜〜ッ♡ れおっ、イかせてっ♡ おねがいっ♡ おねがいっ♡」
「え〜〜おれのことはイかせてくれなかったのに、自分はイきたいんだ? 悪い子だなあ〜〜悪い子はどうするの?」
「んっ、あう、ごめんなさいっ♡ ごめんなさいするっ♡」
「そうそう〜〜えらいねチャド、ぴゅっぴゅしたいね?」
「うんっ♡ ぴゅっぴゅしたいっ♡♡ れおっ♡♡」

頭の中がイクことしか考えられなくなってたおれは、レオのご機嫌をとろうと必死になって喋った。もう何言ってるか分かってなかった。「レオがぴゅっぴゅしてくれるなら何だってする!」って言った気がする。その言葉でやっと満足したのか、レオは「じゃあ、いい子のチャドくんにご褒美あげなきゃな」って膝立ちになっておれのチンコをケツにあてがった。ご褒美! やっと開放される! って喜んだおれは、それだけでちょっとイってたと思う。脳内麻薬ドバドバの状態でレオの中に入ったら、そこはとろとろとろのふわふわふわで、甘くおれのチンコを締め付けてしゃぶってくれた。ぬこーぬこーって上下にゆっくりしか動いてないのに、まるでイってるのが続いてるみたいに気持ちよくて、あ〜〜おれ、ケツで抱かれてる……って思ったね。

レオの顔が近づいてきて、それがめちゃくちゃとろけて気持ちいいって表情してたから、もっと気持ちよくしてあげたくて、つんと立った乳首を摘んでくりくり捏ね回したり、臍の下辺りをぐっと押し込んで揉んでみたりした。なんか、チャクラ? とかいうエネルギーの流れが人間にはあって、そこをマッサージするといいってレオが言ってた。だから、快感でくらくらしながら、レオの言葉を思い出して真似してみたんだけど、それは正解だったらしい。「はあ♡」ってたっぷりとした吐息を漏らして、だんだん腰を振る動きを速めて、イこうとしてるのが分かった。さっきイかせられなかったから、今度はちゃんとイかせようと思って、おれもレオの動きに合わせて腰を突き上げた。中にチンコを擦り付けて、いいところにあてながらキスをする。

舌を絡めながら動いてると息が苦しくて頭がぼうっとしてくるんだけど、レオも同じくらい苦しそうな呼吸をしてたから、あっ人工呼吸しなきゃって変なこと思って、またキスしてた。しばらく夢中になってたら、口移しの呼吸が苦しいところを通り過ぎた瞬間、ふわ~〜っと何かが降りてきておれたちを包んだ。やさしくてあたたかくて、涙が出そうな感覚。恍惚とした光の中、おれとレオはひとつになって、どこまでもとろけてしまいそうだった──。

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「天国ってああいう感じだと思わない?」
「知らない。天国行ったことない」

死ぬほど気持ちよかったセックスの感動を分かち合いたくて、もりもりとエビアボカドのサラダを食べるレオに聞いてみたんだけど、あんまりロマンチックな返事をくれなくて、おれはちょっとへこんだ。しょんもりしたのが分かりやすかったのか、レオは母親が子どもにするようなキスを額にひとつ落として、「チャドはいい子だから、天国行けるよ、きっと」ってすこしずれたこと言って慰めてくれた。嬉しい。おれも自分の分のチキンサラダを開けて、フォークを取った。

レオとのセックスは、気力も体力もすごく消耗するから、終わってから食べる飯がめちゃくちゃ美味しく感じる。おれたちは人一倍身体を動かすせいで(セックスもそうだけど仕事もそうだ)、食べる量も人一倍多い。おれはあんまり料理が得意じゃなくて、一人だといつも茹でたり焼いたりした肉に冷凍のブロッコリーあっためたやつとか、適当なインスタントとか果物とか食ってる(プロテインは別)。ホントはジャンクフードも好きだから、でかいサイズのクランベリージュース買ったついでにチキンナゲットも頼んじゃうんだけど、レオが「そんないつ換えたかも分かんない油で揚げたモン食うな!」って怒るから、この部屋には持ち込まないようにしてる(いま食べてるデリは、レオのお墨付きだから何を買ってきても怒られない)。でも、おれはレオがこっそり添加物いっぱいの、舌が真っ青になるキャンディを戸棚に隠しているのを知ってる。

「そうだ、もうマルチビタミン切れるから次買ってきて」
「オッケー。こないだ言ってたリポ? なんとかってのは?」
「リポソーム? 通販の方が安いからいい」
「何に効くのそれ」
「美白とか」
「レオじゅうぶん白いじゃん」
「いやだって、おれ煙草吸うからビタミンC補給しなきゃ」
「女子力たけえ〜〜」

あのな、クソ美意識アゲアゲの女ばっかり相手にするから気ィ使うんだよ。とレオがため息まじりにこぼす。プロ意識が高いせいで、食事も運動も肌のメンテもこまめにしてる(だってポーズとったときに脇毛生えてたら見苦しいって理由でワックス脱毛するような男だぜ!)レオは、おれからしたらなんか窮屈そうでたまんない。うちのジムのヨガスタジオだけならそうでもないんだろうけど、個人顧客はかなりハイソらしい。そして、ハイソなお客は見目麗しいトレーナーを求めるらしい。「おかげで稼ぎまくってるよ」ってレオは言うけど、なんか金持ちのインテリアにされてるみたいで、おれはちょっともやもやする。

「そういえばさ、レオは何でうちのジム就職したの」

もやもやしながらも、不思議だった。自分の体ひとつで稼げるレオは、どうして地元の(こう言っちゃなんだけど)ゆるくてしみったれたジムなんかにやって来たんだろうって。おれはただ筋トレが好きで、仕事中に勝手にワークアウトしててもどやされないからいまの職場続けてるんだけど。もし、レオがうちのジムに来なかったら、きっとおれたちは出会わなかったと思う。馬鹿でも分かるくらい客層が違うなって感じるし、レオの馴染みの店は、デリだってウェアだっておれよりずっと意識高い系のブランドだ。こうやって部屋を行き来するようになってはじめて、同じサプリ飲んでるからまとめ買いしようとか、一緒に飯食おうとか、味がはずれだったプロテインの押し付け合いとか出来るようになった。レオは最初、言いたくないみたいに口を引き結んでたけど、おれが目から「お願いお願いビーム(レオが名付けた。なんか捨てられた子犬みたいにあら、あらがえないあわれさ? ってやつがあるらしい)」を出したら教えてくれた。

「……恋人と別れてさ、クソ面倒くさそうな雰囲気撒き散らして泣きながら歩いてたんだけど、あのジムの前通ったときに、ガラス窓の向こうで馬鹿みたいにノリノリで走ってる男がいてさ、うわーこいつすげー馬鹿そうって思ってたらなんか、笑えてきて。馬鹿そうだけど楽しそうでいいなって見てたら、ヨガのインストラクター募集中ってあったから、あー、あの馬鹿みたいな男の顔毎日見られたら楽しいかなって、思って……」

最後の方はゴニョゴニョしてたけど、サイコーなことにおれの耳はiPodで鍛えてるおかげでレオの言葉を全部聞き取れた。それっておれのことじゃん! よく馬鹿馬鹿言われてちょっとムカつくときもあったけど、馬鹿でよかったとはじめて思った。もしかして、馬鹿って褒め言葉だったのか? 何で教えてくれなかったんだ! 嬉しくて、おれが犬で、尻尾があったら千切れるくらいめちゃくちゃ振ってたと思う。レオは「言わなきゃよかった」って顔してた。耳が真っ赤になってて、恥ずかしそうに下唇を噛んでる。おれは、この嬉しさがレオにも分かるといいなって思って、チキンサラダとアボカドのサラダを越えて、レオの鼻にキスをした。「馬鹿、マヨネーズ付いただろ」って押し返されたけど、その手のひらにもキスして、おれって世界一しあわせな男だなって思った。

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おまけ

「なあなあなあ、ちなみに前の恋人って女? 男?」
「男。めっちゃ金払いよくて顔もセックスもよかった」
「まじ? えっ、待っておれは? おれって顔いい?」
「鏡見ろよ、超イケメンじゃん」
「セックスもいい?」
「超いい〜〜今度タントラセックスしよーぜ」
「何それ? あッでもおれ金ない!」
「おれ金あるからいーよ。なあもう面倒くせーから引っ越してくれば? ときどきなら飯作ってやるよ」
「まじ? 結婚じゃん。めちゃくちゃしあわせにする!」
「はーお前ってほんと馬鹿でかわいいな〜〜」

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続編:子犬にしてあげる vol.2