はあ、と指先に息を吹きかける仕草はちょっとかわいらしいかも。と、玄関の扉を後ろ手に閉めるクリフの様子を眺めながらロイは思った。温暖なハリウッドと違って、ロイの住んでいる街は気温も下がれば道も凍るから、普段着にジャケットを羽織っただけの薄着の彼が心配でもあった。もちろん、家の中では空調を利かせているから大丈夫だろうけれど。
──こういうとき、気の利いた台詞が思いつかない。
クリフなら、ロイが寒がっていたら「暖めてやろうか?」なんて冗談っぽく笑って手を握ってくれるだろう。でも、ロイはそういうコミュニケーションを取るのが苦手だ。職場では気のいい同僚を装うことが出来るのに、ことプライベートな場所(とくに自宅)では装いを解いて素の自分でいたいので、どうしても淡白になってしまう。
とりあえず、無難にお茶でも淹れようと、預かったジャケットをコート掛けに吊るし、キッチンのケトルをセットする。クリフも、ロイのこういう、ともすればそっけないような態度に慣れているので、無理に親密なコミュニケーションを求めては来ない。それがとても楽だった。
お湯が湧くのなんてあっという間だから、キッチンから離れるのもなんだし、とシンクの前に立ったままのロイにクリフが寄り添う。身体が触れるか触れないかの位置に立つ彼の側面はまだ外気が貼りついているみたいで、ほんのりひやっとした。
「寒く、ありませんか」
「ああ、大丈夫。あんたの横にいるとあったまるし」
「僕、そんなに体温高くありませんよ」
「気持ちがさ、気持ち。なんかほっとするんだよ」
「そうですか」
それなら、嬉しい。と、口に出して言えない台詞を、カチンとお湯が湧いたことを知らせるケトルの音でごまかす。会話が途切れても気まずくならないのは、ひとえにクリフが優しい目をしているからだと、ロイは思っている。なんでも許してくれる目だ。けれど、その優しさがロイにだけ注がれるものではないと知っている。
「今月は忙しいでしょう、その……ハリウッドにもクリスマスはあるでしょうから」
「ああ、仕事の付き合いが目白押しだな」
「無理、しないでくださいね」
「大丈夫さ、あんた優しいな」
と、淹れたお茶を飲みながらクリフはロイにまたあの目を向ける。慈愛というのだろうか、あたたかな視線で低温火傷しそうだった。彼がこの目を向けるもうひとりの男性を想像しながら、それでもロイは自分が嫉妬をしたり羨望したりすることはない。クリフの愛を分けてもらっている、という奇跡にただ喜びを感じていた。その境地がいつまでも続くものなのか分からないけれど、いまこの瞬間を噛みしめるのが大事だった。
けれど、ほんのすこし。ほんのすこしだけクリフに自分という存在を示したい気持ちはあったので、今日はめずらしく「あの、」と勇気を出して願望を口に出してみる。
「明日、手袋を買いに行きませんか……今月またこっちに来るでしょう? 来週には雪も降るし、今日より寒くなりますから、あの、まだ早いけれど、クリスマス、プレゼントに……贈らせてください」
それを聞いたクリフは一瞬きょとんとして、ぱちり、瞬きをして。ほんとうに嬉しそうに顔をほころばせて、「いい考えだ」と答えた。