01. フラペチーノ、愛情カスタムで

「あっ、あれ飲みたい」

 ジェイが指差したのは有名なコーヒーチェーン店の季節限定フラペチーノ。毎月きらびやかなビジュアルで宣伝している、いわゆる「映える」飲み物というやつだ。つまり、思いっきり彼の好みというわけ。

「いまの気温何度だと思う? こんなときに氷砕いたドリンクとか勘弁だぜ」
「君は飲まなくていいよ、べつに。僕はこれ頼むから」

 気の進まないタイラーを置いて、ジェイはさっさと店内に入ってしまった。ぽつん。犬を繋いでおくスペースにちょうど立ち止まってしまったので、まるで寒空の下に置き去りの子犬である。いや、俺は子犬とかそういうセルフイメージじゃないから。と、タイラーも続いて店内に足を踏み入れる。

 平日の昼過ぎ、人はまばらで、ラップトップを広げたりノートに書き物をしたりしている個人客、お喋りに夢中な三人組、窓際の一人掛けソファで読書にいそしむ連中がぽつぽつ、といった具合だった。カウンターを見ると、ジェイは店員と笑顔で話し合いながら時間を掛けて注文している。この店は無料と有料のカスタムがいくつもあるから、おすすめでも聞いているのだろう。

──欲張りなんだよなあ、あの人。

 あれもこれも一度に楽しみたい、とか。最高の一品を求めて、とか。その探究心は買うが、あんまり店員に微笑みかけないでほしい。ほら見ろ、すげー照れてんじゃねえか。また知らない奴の心をがっちり掴みやがって……。

 タイラーは、ジェイに惹かれ始めているであろう店員に見せつけるよう、愛しい人の後ろからぴったり腰を抱き寄せて、「俺はホットコーヒーでいーから」と耳元へ囁いた。いきなりの刺激にびくっと肩を跳ねさせたジェイが、「もう、いい子で待ってて」と腰に回した手をやんわり握りしめた瞬間、店員の顔がきゅっと失恋した少年みたいになったのを、タイラーは見逃さなかった。やったな、どん底への第一歩だ。強くなれよ。

「決めた! やっぱり、最初のカスタムにするよ。店内で、あと蓋はいらないから」

──ね、知ってた? 蓋しないでもらうと、ちょっとクリーム増やしてくれるんだって。

 きっとさっき教わったのだろう。タイラーには一生必要ない知識だが、得意げに知らせてくるジェイがかわいかったので「そーなんだ。賢くなったな」と頭を撫でて褒めた。ふふん、と嬉しそうにしながら受け取りカウンターへ移動するのを追いかけ、引っついて離れないティーンのカップルみたいにちゅ、ちゅ、と髪にキスして待つ。

「どうしたの。今日、甘えたじゃないか」
「ンー、甘ったるいモン見てたら甘えたくなった」
「なにそれ、かわいい」

──そう、俺ってかわいいの。そんで、健気だからね。

 冷たいフラペチーノを受け取ったジェイが、たぶん半分くらい飲んだあたりで「寒い」と言うのを見越して温かい飲み物を注文するくらい健気だ。

 あんのじょう、最初は意気揚々として「すごく甘い」「ケーキみたいで美味しい」と飲んでいたジェイだが、半分とすこし過ぎたあたりで「冷たい」「もう飲めない」と言い出したので、まだ熱いコーヒーと交換し、「君ってとっても気が利くんだね」とお褒めの言葉をあずかり、今度はタイラーの方がふふんと得意げな顔をしてみせるのだった。