02. 暴君とショッピング

 ホリデーシーズンの五番街沿いは、クリスマスのデコレーションが施されて華やかな光を放っている。ブラックフライデーだのサイバーマンデーだので買い物をする貧乏人と違って、好きなときに好きなだけ物を買うキャンディは、セールの時期からすこし外れた日にゆっくりとショッピングを楽しみに来ていた。

 自分へのクリスマスプレゼント、新しいコート、ブーツ。そういえばクリスマスコフレもチェックしたい。あの店のチョコレートが入ったアドベントカレンダーも気になるんだった──ゴージャスな白いファーコートをふわふわ揺らしながら、キャンディは一歩後ろをついて来る男に声を掛ける。

「たくさん買うからな、荷物持ち」
「誰が荷物持ちだ」

 共連れのアキレスは、ただでさえいかつい顔をしかめてキャンディを睨んだ。しかし、「そんなことを言うなら一人で行け」などとは言わなかった。何故なら、アキレスも欲しい物があるのだが、現代の地理にも作法にも疎い自覚があるので、仕方なく眼の前を歩く白いもふもふについて行くしかなかったのだ。

──それにしても、この世界は眩しすぎる。

 イルミネーションのぴかぴかと輝く光、電光掲示板、行き交う車のライト。建物の窓からも煌々と明かりが漏れて目を焼くようだ。そう、現代のこの光たちに慣れないと相談したら、「慣れるまでサングラスでも掛ければいいんじゃないか?」とルイにアドバイスされたのだ。彼は太陽の光から隠れている吸血鬼らしいので、まあまあ建設的な案を出してくれた。

 けれど、金はあっても何処でどう買ったらいいものか。と、悩んでいたところでキャンディからの「おいお前、私の買い物に付き合え」である。好都合だ。「ああ、俺の欲しい物に案内してくれるならな」と言う条件を、相手が覚えているかいささか心配になってきたが──「おい、ここから選べ」

 ふっと現実に意識を戻すと、ラグジュアリーなデザインのサングラスが並ぶ棚を指したキャンディがアキレスを見上げていた。ブランドものらしきそれに値札はついておらず、手持ちで足りるか分からなかったが、選ばなければ蹴飛ばしでもしそうな剣幕の彼に負けて、いちばんシンプルなデザインの物を手に取った。

「ふむ……顔がいいからどれでも似合いそうだが、それでいいのか?」
「あまりごてごてしいのは好かん」
「では決まりだ。おい、これとそこの新作香水を。サングラスはすぐ使う」

──お前に一足早いクリスマスプレゼントをやろう。

 にやりと不敵な表情で笑うキャンディは、「さ、駄賃だと思ってまずはそのショッパーを持て。大事にな」と言って買ったばかりのサングラスを渡してきた。素直に受け取って掛ければ、何故か彼の方が満足げに「やはり私の見立てたブランドで正解だ」と楽しそうに瞬きをした。

 それがなんだか、ぱちりぱちりとちいさな星が瞬くような光を放つものだから。アキレスもぱちぱちと瞬きをして、「まだ眩しい」と呟く。キャンディは「何を言っているんだ? さあ、買い物はまだ始まったばかりだからな、覚悟しろ」とずんずん先を行ってしまう。

 もう目的は果たしたのだから、自分は帰ってしまってもいいのに、アキレスはどうしてかその、暴君のように振る舞う白いもふもふの彼を置いていけなかったので、彼にか自分にかため息を吐きながらも苦笑してついて行くのだった。