振り回して、ダーリン

 情事でのジェイの我がままといえば、「今夜は僕が上に乗りたい」とか「今日はどんなに僕がいやだって言っても三回はいかせてね」とか、およそ可愛らしいものがほとんどだったので、今回は完全に油断していた。女性物のストッキングを片手に「今夜はこれを使いたいのだけど……」とやや恥ずかしげに上目遣いで尋ねる彼に、ジャックは二つ返事で許可を出した。それが、こんなことになるとは──。

「はああ、ん、いっく、いく、出したいぃ、じぇい、たすけて……」
「ジャック、だめ、触らないって約束したでしょう。ああ、かわいい人」
 ローションでとろとろに濡れたストッキングの両端を持つジェイが、ほう、と色気の滲み出るようなため息を吐く。しゅこ、しゅこ、左右に滑らせるストッキングがあたっているのは、かわいそうなくらい充血して先走りを垂らすジャックの亀頭であった。先端への刺激だけではいけそうでいけない、けれど、漏れてはいけないものを漏らしてしまいそうなくらい気持ちいい。

「ふぅうう、ふ、じぇい、さ、竿も、こすって、たのむ……!」
 このままでは射精できない。ずっと陰嚢の中でぐるぐると精子が暴れているような感覚。
「だぁめ、今夜は僕が満足するまであなたをいじめるって決めているんだから」
 しゅこしゅこ、短く素早く、亀頭を磨かれるように濡れたストッキングが往復する。そのたびにジャックは「あっあっ」とか「きゅう」とかちいさく悲鳴を上げて快感から逃れようと腰を引く。しかし、ジェイはそれを許さず、逃げる性器をうまく追いかけて刺激を続けた。しゅるるる、にゅるるる、長いストロークでシルクが滑る。「ひゃんん!」突如変化した刺激に、ジャックが肩を大きく震わせて腰を突き上げる。手元がくるってジェイの指にものがあたってしまった。
「あっ、ああ、あ……」
 それがとどめだったのだろう。

 ぷつ、と先端から透明なしずくが流れ出る。一滴でも流れれば、もうあとはダムが決壊したかのように、しょわ、と潮が溢れ出てしまった。「うう、ぐす、も、漏らすなんて……」ジャックは自分の粗相がショックだったらしく、顔をぐずぐずにさせて泣いている。途端、ジェイの心に加虐心と庇護欲のないまぜになった複雑な感情が生まれた。

──かわいい!もっと泣かせたい!
 ジェイは、べしょべしょに濡れたジャックの性器をやさしく唇で拭った。ぺるぺると猫がミルクを舐めるようにちいさく舌を出して。先走りと潮のしょっぱさ。ローションの薬っぽい甘さ。彼の熱い血潮の匂い。気づけば夢中で咥えていた。じゅるじゅると飲み込むよう竿を唇で扱けば、ジャックは泣いていたことも忘れて気持ちよさそうに喉を晒していた。
 そのうち、まだ足りないと言わんばかりに腰を使って性器をジェイの喉奥まで突き入れてくる。ぐ、と込み上げる嘔吐反射を我慢し、両手も使って奉仕する。普段なら「君はそんなことする必要ない」と言って性器に口づけることさえ遠慮するのに。

──ペニスの気持ちよさに抗えないあなたが可愛い。
 くくっ、と喉の奥で笑うと、それがまた刺激になったのだろう。ぶわ、と喉の奥で性器が膨らみ、ジャックはいきおいよく射精した。びゅ、と粘膜にかかる熱い精液。粘ついて、濃くて、鼻から抜ける野性的な匂いに、きゅん、と腹の奥が切なくなった。

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「すまない、ああ、泣くほどつらかったね」
 ジェイの涙を拭うジャックの指を、ぱくりと咥えて驚かせる。ねえ、あなたは僕が感じたように、涙を流す姿に複雑な感情は生まれなかった? 加虐心と庇護欲と、あなたにだったらめちゃくちゃにされても構わない気持ち。
 目を合わせたままゆっくりと、唾液で濡れたジャックの指を股ぐらに導く。彼はすぐに、ほんのすこし目を細めて、ちゃんと君の意図を汲んだよ、というように秘部へ指先をあてがってくれた。その瞳が鈍くぎらりと光って見えて、彼も自分と同じものを抱いたのだと確信する。

「君の我がままに振り回されるの、結構好きなんだ」
 耳をやわく食みながら、艶っぽい低音がジェイの鼓膜から脳を犯す。
 じゃあ次は、あなたの我がままを聞かせてよ。という台詞は、ジャックの口づけに飲み込まれて声にならなかったけれど、そのあと朝までじっくりと抱かれてとろとろになったジェイを見れば、とんでもない我がままに振り回されたのだな、と分かるのであった。